第4章 【03】鳥籠のジュリエッタ
「何の参考だよ。ま、いいか。どーもしない、って答えた」
「は?」
「は?じゃねーよ。聞いてろよ」
「いや、聞いてたけど……どうもしないの?」
「どうにかしないといけないことなんてねーじゃん?」
氷雨は驚いた。どうにかしなければいけないことは、大量にあると思っていたからだ。ヴァリアーのこと、コメータファミリーのこと、自分のこと……そのどれもが真後ろにいる少年にとっては“どうもしなくていいこと”だったというのだろうか。気付いたら、氷雨は「いっぱい、あるよ」と答えていた。
ベルフェゴールは、その台詞を聞いて暫し黙り込んだ。氷雨の腰に回した腕に、今度はハッキリとわかるように力を込める。
「おまえがどーしたいかは知んないけど、逃がさねーよ」
「いや、逃げるわけじゃなくて」
「此処から離れるって言うんなら同じことだ。ボスはあんまおまえのこと気に入らないみたいだけど……オレには関係ないね。隊員が無理なら使用人にでもする」
「あの、なんか決定事項っぽくなってませんか」
「文句あんの?」
「文句というか、質問が多々」
「……やだ。聞くの面倒」
「ええぇ……」
大変横暴である。しかし、困惑しながらも拒否しようとしない自分が氷雨の中にはいた。どういうことだろう。心臓の音は相変わらずうるさいし、腰と背中のあたりが妙に熱い。
「おまえはオレの傍にいること。これ、王子の命令ね」
じゃーもー眠いから寝る、と言ってベルフェゴールはそれ以上一言も発さずに黙り込んでしまった。少しすると、すーすーと寝息が聞こえてくるのが氷雨にもわかった。
抱き枕にされたままの彼女は、顔を真っ赤に染めて固まっている。まるで普通の女の子のように。