第4章 【03】鳥籠のジュリエッタ
不意に、ふあ、とベルフェゴールは盛大な欠伸をこぼす。
「あーねみー」
「眠いなら寝てれば良かったのに」
「ナニソレ。かっわいくねーの」
氷雨は首を傾げる。今の会話のどこに可愛いか否かを判断する要素があったのだろうか。
二つ目の欠伸を零しながら、ベルフェゴールはベッドに寝転がった。
「氷雨、こっち来いよ」
「?なんでまた」
「いーから。来ないと殺す」
「行きます」
やはりベルフェゴールはベルフェゴールである。相変わらずの言い分に心の中でちょっと安堵しながらも、氷雨はベッドサイドに歩み寄った。
ベルフェゴールは「それでいいんだよ」と言ってとても満足そうに笑うと、彼女の腕を引っ張ってベッドの中に引きずり込む。包帯だらけの片腕にどうしてそんな力があるのか、悲鳴にならない悲鳴が氷雨から発せられるのも構わずに、まるで抱き枕を抱えるように彼女を後ろから抱きしめる形で二人はベッドに横になった。
氷雨は、とくん、と心臓が脈打つ音を聞いた気がした。
「ちょ、ベルくん、なんで」
「んー?なんとなく」
「えええぇ……」
「意外と柔らかいじゃん。細っこいのにな」
「細っこいのはベルくん…」
「へえ?」
「あ、ごめん。うそ、嘘です」
「よろしい」
ししし、と笑う声が耳元で空気を震わす。なんだこの状況は、と氷雨は思っていた。ベルフェゴールの声のトーンはいつもと変わらない。でも、腰に回った腕に少しだけ力が入ったように、彼女は感じた。
「もー勝手にどっか行くなよ」
「……私は飼い猫か何かなのかな」
「それでもいいけど。首輪つけとく?」
「いや、遠慮したい」
「そ?ざーんねん」
まったく残念そうではない様子でベルフェゴールは言う。寧ろ楽しそうである。
怪我人相手に暴れるわけにもいかず、大人しく抱きつかれているしかない氷雨は諦めたように息を吐いた。とく、とく、と普段より早いような気がする鼓動には気付かないフリをする。
「ベルくん、ボスに聞かれた?これからどうするつもりか、って」
「あー……聞かれたな、そんなことも」
「なんて答えたの?参考までに」