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THE WORST NURSERY TALE

第1章 【01】プロローグ


 ベルフェゴールがドアノブに手をかけると、それはすんなりと回って扉も開いた。その部屋は、ベージュを基調とする落ち着いた色合いで全体が纏められており、一見するとモデルルームの一室のようにも見えた。清潔感はあるが、生活感の薄い印象を受ける。
 部屋の一角にあるシングルベッドで氷雨は眠っていた。ベルフェゴールが部屋に入ってきたことにも気付いていないのか、呑気に寝息をたてている。


「ったく、アホ面晒して寝やがって」


 悪態を叩く声量は普段よりも小さかった。躊躇う様子もなく部屋に上がり込み、ベッドを背凭れ代わりにして座る。そして、持っていた紙袋を隣に置いたかと思えば、そのまま持参したゲームを始めてしまった。静かな部屋にピコピコとゲーム音だけが微かに響く。
 それからどれほどの時間が経ったろうか。不意に布団の山がもぞもぞと身動ぎすると、むくりと起き上がる。夢と現実の狭間でもさまよっているのか、なおも響くゲーム音に反応して視線を室内に巡らせながらもその瞳は空ろであった。彼女が金髪の後頭部を視界に捉えるのにそう時間はかからない。


「……ベルくん……?」

「起きんのおせーよ。部屋入ったときに気づけ、それでも殺し屋かよ」

「……すみません」


 ベッドに座ったままで氷雨は素直にぺこりと頭を下げた。
 彼女の目の前でゲームに熱中しているらしい後頭部は、画面から目を離さずに片手で紙袋を引っ掴み、彼女に差し出した。寝起きでどこか靄が掛かったような思考のまま氷雨はそれを受け取る。そして小さく首を傾げた。


「えっと、これ……」

「帰ってからなにも食ってねーんだろ。食えば?」


 その言葉を聞いて、氷雨が袋の中身を見てみると、ハンバーガーにフライドポテト、コカ・コーラ……と、いわゆるファストフードが入っていた。試しにフライドポテトをひとつ摘まんでみたところ、すっかり冷めきっている。けれども、氷雨は嬉しそうに笑ってフライドポテトを次々と口に運んでいく。
 彼女の視界に映る後頭部は、相変わらずゲームに夢中であるように見えた。
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