第1章 【01】プロローグ
ベルフェゴールは、苛立ちを持て余した様子で勢いよく椅子から立ち上がったかと思えば、そのままダイニングから出ていってしまった。さすがに今の彼を呼び止める者はいなかった。
「今日はナイフが飛ばなかったね」
ベルフェゴールがいなくなり、微かな食器の音だけが響く食卓の重い空気を打破したのはマーモンの声だった。その声は抑揚に欠けていたが、他の音が少ない空間には思いの外よく響く。
「ベルちゃんも本当はわかってるのよ。ちょっと意地っ張りなだけで」
「だからって、それを放置していいわけじゃねぇだろうがぁ」
「それで自ら喧嘩を吹っ掛けたのか…」
「気付いてなかったのかい、レヴィ?」
「スクアーロったら意外と優しいところがあるわよね~!」
「う゛ぉおおい!うるせぇえ!俺はいつか任務に支障が出るんじゃねぇかと思ってだなぁっ」
「どっちにしろ優しいってことになるんじゃないかな、その理由だと」
堰を切ったように、その場にいる者達が次から次へと話し出すと、静かだった食卓も急に騒がしくなった。「いただきます」も「ごちそうさま」もないが、それでも見知った者が集まる食事の席となれば自然と賑やかになるものだ。
舞台は、非常識で騒がしい暗殺部隊のアジト
(でも本当に、ナイフを投げないなんてベルちゃんも成長したわね~)
(まったくだ。これで少しは大人しくなれば良いのだが)
(無理だろ)
(無理だね)