第1章 【01】プロローグ
「ありがとう、ベルくん」
「ししっ、王子やさしーからね」
「うん、本当に優しいね」
「……、……なあ、」
氷雨の意識はすっかり覚醒したらしい。いつもの調子で話しながら、がさごそと袋を漁ると今度はハンバーガーを食べ始める。それはもう、美味しそうに。
ベルフェゴールは暫し黙りこんだ後に、ようやく彼女のほうへ振り返った。プレイヤーの操作を失ったゲームは、簡単にゲームオーバーになってしまう。そんなことはまったく気にしていない様子で彼は言葉を続けようとした。が、中途半端に開かれた唇は再び一文字に結ばれてしまう。
氷雨は、不思議そうに首を傾げた。
「ベルくん?」
「……やっぱ、いいや」
「え?でも、」
「たいしたことじゃねーよ。気にすんな」
彼女の言葉を遮ると、ベルフェゴールは唐突に立ち上がってゲーム機片手に部屋から出ていこうとする。氷雨はその背を見つめるだけで引きとめる言葉なんて発しなかった。それは今日に限った話ではない。
「オカマが心配してうぜーから、夕飯にはちゃんと来いよ。これ王子の命令」
ばたんと大きな音を立てて、ベルフェゴールは扉を閉める。返事を聞く気などなかった。そう一言伝えておけば、氷雨が夕食に来るとわかっていた。
だからこそ彼は知らない。扉の向こうで氷雨が笑っていたことを、彼は知る由もない。
準備は万端。さあ、物語をはじめよう
(みんな、おはよう!)