第4章 【03】鳥籠のジュリエッタ
眉間に皺を寄せる氷雨の姿を見て、ルッスーリアは少々驚いたような顔をした。ルッスーリアが知る限りでは、氷雨はそう簡単に負の感情を表に出すような人間ではない。寧ろポーカーフェイスの得意な少女という印象だった。
「氷雨ちゃん、なにかあったの?」
「え?」
「いつもみたいな余裕がないように見えるわよ?」
「……そりゃそうだよ。これだけ迷惑かけてるんだもの」
氷雨はバツの悪そうな顔をする。スクアーロに許されたことで多少は吹っ切れたとはいえ、やはり事が事だけに失態の衝撃は大きい。何も気にせずに笑えるほど彼女は子供ではなかったし、上手く切り替えができるほど大人でもなかった。
ルッスーリアは、くすっとおかしそうに笑う。
「変かな?」
「そんなことないわよー。もうスクアーロったらガンガン叫んでたし、物凄い大事よね!」
「あ、そうだったんだ……」
「でも、あなたはベルちゃんを責めないのね」
ルッスーリアはニコリと微笑んで、そう言った。氷雨は思わず言葉に詰まる。まだルッスーリアは笑っている。
「ベルちゃんを責められない理由があるのかしら?」
「……姉さんには敵わないね」
「あーら、このルッス姉さんを欺こうなんて100年早いわよ!」
「あはは、ほんとそうみたい」
あのねルッス姉さん、と氷雨は少しだけ声を潜めて言った。声量を落としてもルッスーリアに聞こえやすいように、しゃがんでベッドサイドに寄る。
ルッスーリアの表情は、まるで恋バナでもしているときみたいに輝いていた。
「私、動揺したの。おかしいよね」
「どうして動揺したの?」
「ベルくんが……言ったんだ。“おまえのいないアジトは薄気味悪い”って」
おかしいよね、ともう一度言って、氷雨はベッドの端に顔を伏せた。本気にするなんてどうかしてたとしか思えない。
必要とされてるのかもしれない、と思うなんてどうかしてる。
「あら、あの子ったらそんなこと言ったのね!可愛いところあるじゃない」
「……本気にするの?ルッス姉さん」
「もちろんよ。あの子が氷雨ちゃんに嘘吐く必要なんてないじゃない?」
「そりゃそうだけど……」
「それでそれで?動揺したってことは、嬉しかったの?」