第4章 【03】鳥籠のジュリエッタ
「う゛お゛ぉい、ルッスーリア。話し相手を連れてきてやったぞぉ」
「あら、スクったら気が利くわね~」
「……ルッス姉さ、ん?」
スクアーロに案内された部屋に入ると、氷雨は驚いた。鼻につく薬の匂い、内装に似つかわしくない点滴と、それと繋がれているルッスーリア。大怪我をしていることは見ればわかる。
だからこそ、氷雨は驚くしかなかった。ルッスーリアがベッドで寝ていなくてはならないほどの怪我をしたところを彼女は見たことがない。
「氷雨ちゃん!お見舞いに来てくれたのー?」
「え?あ、う、うん…?」
「じゃあ、後は頼んだぞぉ。俺らは並中に行ってくる」
「え?」
「はーい。いってらっしゃーい、ベルちゃんに頑張ってって伝えてちょうだい!」
「気が向いたらなぁ」
状況把握ができない。故にオロオロするしかない氷雨を置いて、さっさと会話を進めてしまったスクアーロはそのまま部屋から出ていってしまった。パタン、と扉が閉まる音と同時に、訪れる静寂。
「氷雨ちゃん」とルッスーリアは、彼女の名前を呼んだ。氷雨はベッドに近寄っていく。
「ベルちゃんの事は聞いたわ。大変だったわね」
「あ、うん。……っていうか、ルッス姉さんのほうが、大変そうだけど」
「あら?もしかして聞いてない?私の怪我の理由」
氷雨がこくりと頷いてみせると、ルッスーリアは苦笑いして怪我の理由を説明した。ハーフボンゴレリングのこと、リング争奪戦のこと、沢田綱吉のこと、晴の守護者戦のこと……どれもが氷雨にとっては初めて聞く情報ばかりだった。自分がいま日本の“並盛町”にいることも、ここで知ったくらいだ。
「相手、そんなに強いの?」
「どうかしら。私は油断してたのもあるのよねぇ」
「そっか……」
正直なところ、そんな大変なことになっているとは氷雨は思っていなかった。XANXUSの力量や影響力を考えればボンゴレのボスになるのは時間の問題だと、楽観的に考えていた節が彼女にはある。そもそも沢田綱吉は、最近注目をされだしたと言っても、マフィアとしては無名だ。ライバル視しろというほうが無理がある。
――私が、迷惑かけていい時期じゃなかった。
己が犯した失態の重大さを、氷雨は痛感する。