第4章 【03】鳥籠のジュリエッタ
スクアーロはポカンとして氷雨の謝罪を聞いていたが、不意に盛大なため息を吐いた。色々なことがわかったような気がした。
「お前、XANXUSにもそうやって謝ったのかぁ?」
「……うん。それで怒られた」
「だろうな。それで機嫌悪かったのか、あいつ」
スクアーロは、がしと頭を掻いた。氷雨は相変わらず俯いたままだったので「顔を上げろ」と声をかけてやると、彼女は渋々ながらもスクアーロへ視線を向けた。瞳に映った怯えの色はまだ消えない。こいつもこんな顔をするんだな、と彼は思う。もっと神経の図太い女だとばかり思っていた。彼は二度目のため息を吐く。
「終わっちまったことを謝って、何になる?」
「えっ」
「許すって言われりゃ満足か?そんなモンに意味なんてねぇだろうが」
「そう、かな」
「あいつは、そういう無駄なやり取りが嫌いなんだろ」
氷雨の瞳に映る怯えの色が薄れたような気がした。東洋人は童顔に見られることが多いと言うが、彼女も例外ではない。顔だけなら、ベルよりも年下に見えそうだな、と彼は思った。
伸ばした右手は、氷雨の頭をぽんぽんと叩く。生憎こういった行為には慣れていないので彼は力加減がわからない。氷雨は少し痛そうに表情を歪めていた。
「俺が許してやる」
氷雨は、驚いたように目を見開いてスクアーロの顔を凝視した。そして、漸く自分がしてきた謝罪の無意味さを知ったのだろうか、バツが悪そうな顔をする。
「後は、自分で考えろ。そこまで面倒見てやる義理はねぇぞぉ」
「あ、はい。……了解」
そう言った氷雨は、なんとも複雑そうな表情だ。スクアーロは本日三度目のため息を吐くと、椅子から立ち上がって「ついてこい」と彼女に言った。
「え、でも、」
「ボスからはホテルから出さなきゃいいと言われてる」
「そうなんだ……」
「こういうことは、俺より適任がいるだろ」
お節介を焼くのは好きじゃねぇんだよ、とスクアーロは吐き捨てた。それでも放っておけない自分がいることは確かで、柄じゃなさすぎて笑ってしまいそうだった。