第4章 【03】鳥籠のジュリエッタ
「ごめんなさい……」
「……」
「ごめんなさい。ほんとにごめんなさい、ごめんなさい」
「……ハッ、つまらねぇ答えだ。ベルのほうがまだマシな答えを出した」
XANXUSは吐き捨てるように言った。おもむろに椅子から立ち上がると、未だ謝罪を繰り返す氷雨の髪を掴んで無理やり顔を上げさせる。
氷雨は、されるがままにあっさりと顔を上げた。いや、寧ろ抗うだけの気力を持っていなかったように思える。怯えの色を映す瞳はXANXUSを見ているようで見ていない。焦点があっていなかった。
「所詮は箱入りの小娘か。自我もねぇとはな……ゴーラ・モスカと変わらねぇ」
「ごめん、なさ、」
「もういい。テメェの処分はリング戦の後だ。それまで此処で大人しくしてろ」
XANXUSが手を離すと氷雨は俯いた。顔を上げる気力すら残ってはいないのか、弁解をしようとする様子も無い。XANXUSはチッと舌打ちをすると、荒々しく足音を立てて部屋から出ていく。
――失敗したら、消される。
そんなことは、当たり前のようにわかっていたつもりだった。けれど、わかっていなかった。実際に失敗する日が来るなんて思っていなかった。失敗したときにその後どうしよう、なんて考えたこともなかった。その結果がこれだ。
静かな部屋に、ガチャリと再び扉を開ける音が響く。
「よぉ氷雨、ようやくお目覚めかぁ!…………、氷雨?」
扉を開けて現れたのはスクアーロだった。いつもの調子で意気揚々と入ってきたスクアーロだったが、氷雨の様子が普段と違うことに気付くと、少し声のトーンを落として彼女の名前を呼んだ。返事は無い。ゆっくりと彼女に近付いていき、先程までXANXUSが座っていた椅子に腰を下ろす。氷雨はまだ俯いたまま、声も発しない。
「どうした。ボスさんにこっぴどく叱られたかぁ?」
「……」
「まあ今回のことは気にすんじゃねぇ。ベルが全面的に悪いだろ。逆らえば、どっちかが死ぬ羽目になっただろうしなぁ」
「……ごめんなさい」
「は?」
「迷惑、かけて……ごめんなさい」
氷雨はそれ以外の言葉を持ち合わせていなかった。いつもだったら、いくらでも言葉が浮かんでくるというのに、今日ばかりは何も浮かんでこない。