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THE WORST NURSERY TALE

第1章 【01】プロローグ


 正午を過ぎた頃、自室でゲームに勤しんでいたベルフェゴールはルッスーリアに呼ばれてダイニングへ向かった。帰ってきたときの一悶着など、すっかり記憶の彼方に追いやられ、いまは寧ろ機嫌が良いくらいである。彼がダイニングに入ると、見慣れた同僚たちは既に席に着いて食事を始めていた。
 この屋敷には「いただきます」という挨拶が存在しない。皆が自分の勝手で用意された食事を取り、勝手に食べ終わって席を立つ。それが彼らにとっての“当たり前”だ。


「なあ、氷雨は?」


 見慣れた顔の中に一つだけ足りない顔を思い出して、ベルフェゴールは椅子に腰掛けながら首を傾げた。
 その言葉を聞いてスクアーロは一瞬食事の手を止めかけたが、なにも言わずに再びスープを口に運ぶ。その代わりに、ベルフェゴールの隣に座っていたマーモンが口を開いた。


「氷雨なら、よく眠ってたからそのままにしておいたよ」

「うしし、なにあいつ。こんな時間に爆睡してんの?変なやつー」


 ケラケラとおかしそうに笑って、ベルフェゴールはサラダを頬張り始めた。マーモンは小さな手で器用にフォークを操りながらパスタを口に運んでいる。


「てめぇが原因だろうがぁ」


 その低音はなにかを押し殺したような声色で静かな食卓に響いた。先程は言葉を呑み込んだスクアーロであったが、結局辛抱しきれなかったようである。
 かちゃり。音を立ててベルフェゴールは食器をテーブルに置いた。背凭れに体重を乗せて腰掛けたまま、不機嫌そうな様子を隠すこともなくスクアーロへ視線を向ける。隣でマーモンは「やれやれ」と肩を竦めた。


「なんだよ。昨日のことまだ言ってんのかよ」

「事実だろぉ。わかってねぇガキに教えてやったまでだ」

「余計な世話だっつの。つか、そもそもオレのせいじゃねーし。報告書なんて移動中でもアジトに帰ってからでもいいのに、わざわざホテルでやってた氷雨がおかしいだろ」

「おまえ、それ本気で言ってんのかァ?」

「本気だったらなんだってーの?」

「もうっ、二人ともおやめなさい!食事の席で喧嘩はだめよ~」


 まさに一触即発といった状態で睨み合っていた二人の間にルッスーリアが割って入った。
 すると、スクアーロは小さく舌打ちをしてから自分の食事に戻る。
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