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THE WORST NURSERY TALE

第4章 【03】鳥籠のジュリエッタ


 翌日もベルフェゴールは風鳥町を訪れていた。相変わらず町中は閑散としている。恐らくあの馬鹿でかい屋敷の威光か何かでこの町は生き長らえているのだろう。マフィアも身を隠す場所の維持くらいは、きちんと行うものだ。山間部の人の出入りが少ない町となれば色々と都合は良いだろうし、と彼は思う。
 彼は初日に色々と情報を仕入れたが、あと一つだけ手に入れたい情報があった。ターゲットのいる部屋の位置だ。出来れば、外から見える位置に部屋があってほしいと思っていたのだが、障子やら襖やらで仕切られた屋敷は何処にどんな部屋があるのかを把握するのが困難だった。まして、ターゲットは曲がりなりにも“お嬢様”だ。シスコン弟が厳重に防備していると考えられる。


「つーわけで、」

「やれやれ。急に連れ出すから何かと思えば……」


 ベルフェゴールの隣で、屋敷を眺めていたマーモンは盛大にため息を吐いた。なにせまだ寝ているうちからタクシーに乗せられ、気付いたら見知らぬ町に来ていたのである。これでため息の一つも吐くなというほうが難しい。
 連れ出した張本人であるベルフェゴールは、まったく素知らぬ顔をして笑っている。


「いくら出すんだい」

「チッ、やっぱそーくるか。Sランク二倍、十分だろ」

「へえ、君にしてはあっさり出すね」

「目的のためには金を惜しまない主義なんだよ」


 マーモンは冷めた声音で「そうかい」と言った。マモンペーパーに手を伸ばしたところを見ると、報酬金額には納得したようだ。
 正直手を貸したくはないと思っていたマーモンだったが、金が絡めば話は別だった。ベルフェゴールの利益よりもヴァリアーの利益、そしてヴァリアーの利益よりも自分の利益を優先するのがマーモンの“マーモン”たる所以である。それなりの報酬を貰えるのであれば、断る理由はない。


「ム……南東、2階の部屋だね。外から入ったとして、距離は30mくらいあるかな」

「そ。やっぱり中央に近い部屋に入れてたか」

「あまり殺さないようにしなよ。いずれボスの駒になるんだから」

「わかってるって。じゃ、行ってくる」


 ヒラヒラと片手を振って、ベルフェゴールは木の上から飛び降りる。まるで買い物に行くような気楽さで去っていく背中をマーモンは静かに見送った。
 数分後、けたたましい警報が屋敷の外まで鳴り響いた。
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