第4章 【03】鳥籠のジュリエッタ
女達の意見は至極真っ当であった。こんなご時世だからこそ、人を殺したことがないマフィアなんてごまんといる。マフィアという世界にいても、暗殺者として名を連ねる者はまた異質なのだ。ましてボンゴレの暗殺部隊となれば、大抵のマフィアは畏怖の感情を抱くもの。いくら名を上げたところで、それは決してプラスの感情にはなり得ない。ただマイナスへ、マイナスへと悪化していくだけ。さすがのベルフェゴールもそんなことは知っているし、一応彼よりも年長者である氷雨はもっとよく知っていて理解しているはずだろう。
空気が違うんだろーな、とベルフェゴールは思った。あの女達と自分が吸ってきた空気は、まったく別物なのだろう。それが悲しいとか、悔しいとか、そんなことは到底思えやしないけど。
『お食事のとき以外は部屋に籠りきりでしょ』
あの女が言った言葉と、同じような響きを持つ言葉をベルフェゴールは知っていた。5年前、入隊して間もない氷雨に向かって、自分が言った言葉だ。
『おまえさ、なんもない部屋にこもって、いつもなにしてんの?』
『え、と……何も』
『なにもしてねーのかよ。変なやつ』
『……だって、何したらいいのか、わからないから』
そう言った氷雨の顔は、酷く醜く歪んでいるように見えた。だからベルフェゴールは気付けばナイフを投げていた。残念なことにすべて避けられてしまったが。
(あのときと、おんなじ顔してんのかな)
それは嫌だ、とベルフェゴールは思う。理由なんて知らない。考えようとも思わない。ただ、なんか、いやだ。
気付けば、腕に付けた時計は3時10分前を示していた。