第4章 【03】鳥籠のジュリエッタ
耳にイヤホンを付けて、周波数を合わせると、耳障りなノイズ音に混じって女達の話し声が聞こえてくる。思惑は成功したようだ。
「今日も東京だったかしら?」
「今日は横浜じゃなかった?なんでも同盟の方が来るとかで。坊ちゃまも大変よね」
「あら、もう坊ちゃまじゃなくて旦那様よ」
「あ、そうだったわねー。なんだかまだ慣れないわ」
(あのシスコンの話か。忙しくしてるみてーじゃん。興味ないけど)
ベルフェゴールは、苛立ちを感じた。氷雨が出ていったと聞かされたときの気持ちが蘇る。いまここに鈴川 黎人が現れたら、一息で殺してしまいそうだと思った。その反面で、冷静な自分もいることに彼は気付く。アイツは姉が大切で仕方がないはずだ。どうやってそれを奪ってやろうかと考えると、自然と口元に笑みが浮かんだ。
「そういえばお嬢様に会った?」
その言葉を聞いて、ベルフェゴールは聴覚に意識を集中させた。鈴川 黎人が、坊ちゃまであるなら「お嬢様」と呼ばれるべき人間はただ一人――彼の姉である、氷雨だ。
「全然。お食事のとき以外は部屋に籠りきりでしょ」
「旦那様とは夜にお話してるみたいだけど」
「ああ、旦那様が気にしてらっしゃるからよね。お帰りになると二言目には“姉さんはどうしてる?”だもの」
「ちょっと慕いすぎよね。昔から仲は良かったらしいけどー」
その意見には全力で同意したい、とベルフェゴールは思う。
「旦那様もボスとしての自覚を持って下さらないと」
「そうよね。……それに、私ちょっと怖いの」
「あら、どうして?」
「女中の先輩から聞いたんだけど、お嬢様ってボンゴレの暗殺部隊に行ってらしたんですって」
「え……それ、本当なの?」
「暗殺なんてしてそうな顔には見えないけど……」
「それが本当らしいのよ。しかも、ご両親がお嬢様の能力を恐れてボンゴレに押しつけたってもっぱらの噂!」
「えー…やだ、怖いわ。なんで今更帰って来たのかしら?」
「もしかしてボンゴレでも手に負えなくなって突っ返されたんじゃない?」
「きゃー、涼しい顔して実は悪女なのね」
「しっ。大きい声で言っちゃ駄目よ。でも本当、人って見かけに、」
ザーとノイズ音が響く。ベルフェゴールが周波数をずらしたからだった。