第4章 【03】鳥籠のジュリエッタ
部屋の中心には、台風の目のようにぽっかりと空いたスペースがあり、そこには十数台のパソコンが並んでいる。一台のパソコンの前に、マーモンの探し人は座っていた。彼の周りには紙束やらフロッピーディスクやらUSBメモリやらが散らかっている。
「こんなところにいるなんて、珍しいね」
「そーだな。初めて入った」
「……初めて資料室に入る理由は、どんなものだい?」
隣の椅子に腰を下ろしながら、マーモンは問いかけた。周りに散らばる資料を見れば、どんな情報を欲しがっているかは凡そ見当が付くが、さすがに目的はマーモンにもわからない。
カタカタとキーボードを鳴らし、視線はパソコンのディスプレイに向けたまま、ベルフェゴールは口元に深く笑みを刻む。
「マーモンさ、自分の金を他人に盗られたらどうする?」
「そんなことはあり得ないよ」
「例えばの話だって。どーする?」
「……盗り返すね、どんな事をしてでも。僕の金だろ」
「ししし、やっぱそーだよね」
ディスプレイの中でポインタが移動して「印刷」のボタンをクリックする。備え付けのプリンタが耳障りな音を立てて印刷を始めた。そこで、ようやくベルフェゴールはディスプレイから目を離すと、隣にいるマーモンに視線を向ける。
「オレも盗り返そうと思うんだよね、オレの玩具」
王子が盗られっぱなしとか、ありえねーじゃん?と続けてベルフェゴールは笑い声を零す。そうして笑う顔は悪戯を考案している子供のそれに似ているが、決して子供が持ち得ぬ狂気を孕んでいた。
マーモンは「やっぱりか」と言って息を吐く。プリンタは尚も動き続けている。
「殴り込みでもする気かい?」
「まー大体そんな感じ」
「下調べなんて君らしくないことをするもんだね」
「しょーがねーじゃん。ボスに迷惑かけると怒られっかんね。でもさ、」
「なんだい?」
「こんなファミリー、いてもいなくても同じじゃね?」
ベルフェゴールは、プリンタが印刷する資料の一枚を手にとって至極面倒そうに吐き捨てた。