第4章 【03】鳥籠のジュリエッタ
マーモンはベルフェゴールを探していた。ここ数日、彼の姿が見えない上に今朝は朝食の席にも現れなかったからである。氷雨の脱退が知らされた後、ベルフェゴールと話をしたらしいスクアーロ曰く「上機嫌で去っていった」ということだが、マーモンにはその上機嫌に、嫌な予感を覚えずにはいられなかった。
スクアーロは「全て上手くいった」と言っていた。本当にそうなのか?
ベルフェゴールの部屋、氷雨の部屋、談話室、バルコニー、中庭と行きそうな場所を手当たり次第当たっていくものの何処にもベルフェゴールの姿はない。マーモンはため息を吐いた。
「しかたないね……ちょっと勿体無いけど、あれを使うか」
腰に付いているマモンペーパーに手を伸ばす。金にならないことに能力を使うのは嫌いなんだけど、とブツブツ呟きながらも小さな手はマモンペーパーを取り、勢いよく鼻をかむ。
紙を広げてみると、そこにはヴァリアーアジトの見取り図が描かれていた。見慣れた見取り図の一点に「Target」の文字が浮かんでいる。どうやらアジト内には居たらしい。マーモンは、使用済みのマモンペーパーを丸めてゴミ箱に放り込むと文字が示した場所に向かって移動を始めるのであった。
ヴァリアーアジト、地下一階。うす暗くあまり人の通らない廊下の先にその部屋はある。アンティークの建築物には似つかわしくない分厚い鉄の扉の横に設置された認証装置にマーモンがパスワードを入力すると、鉄の扉は意外にも音を立てずスムーズに開いた。そして、マーモンの前に現れたのは、大量の棚が並ぶ部屋。普段ならば真っ暗のはずだが、今は照明がついている。
マーモンは部屋の中に入って辺りを見回した。
「ベル、いるんだろう?」
「あー、こっちこっち」
静かな部屋にマーモンの声が響いたかと思えば、棚の向こうから別の声が聞こえてくる。微かにカタカタとキーボードを操作しているような音も聞こえた。マーモンは声が聞こえてきた方向を頼りに迷路のような部屋の中を進んでいった。