第4章 【03】鳥籠のジュリエッタ
だからこそ、ベルフェゴールはわからなかった。ゲームソフトが壊れてしまったときと同じように「しかたねーな」と思えない、今の自分が。苛立ちを通り越して怒りすら覚えている、今の自分が。
そんな少年の葛藤など露知らず、スクアーロはベルフェゴールが出した答に満足そうに笑ってみせた。やっぱりだ。コイツは氷雨のことを玩具以上の存在だとは思っていない。それがわかっただけでスクアーロは十分目的を果たしていた。
「そうか、そうだよなぁ。あいつは玩具と変わらねぇよなぁ」
「なんで嬉しそうなんだよ」
「いや、心配してやってんだぜぇ?お前が気ぃ落としてるみてぇだからな。まあ、玩具をひとつブン取られたくれーでウジウジしてんじゃねぇよ。また新しい玩具でも探せや」
「別にウジウジしてねーし!」
急に機嫌が良くなってペラペラと喋るスクアーロに、ベルフェゴールは怪訝そうな視線を向けた。急に態度変えやがって、なんなんだコイツは……と思ったところで、ベルフェゴールは急にピンと来た。第六感とでもいえば良いだろうか。とにかく急に、視界が開けたような気がしたのである。
ベルフェゴールはゲーム機を放り出して立ち上がった。その表情は打って変わって晴れやかだ。
「……そーいうことか」
「あ?どうした?」
「たまには良い事言うじゃん、見直したぜスクアーロ」
「……はあ?」
唐突に褒め言葉を掛けられたスクアーロは怪訝そうに眉を寄せる。ベルフェゴールから、そんな言葉を聞いたことなど殆どない。喜ぶでもなく礼を言うでもなく、最初から疑って掛かってしまうのは普段の扱われ方故であろう。
対して、ベルフェゴールは上機嫌な様子でベッドから飛び降りると、スクアーロを押し退けて廊下に出ていく。その足取りは軽い。
「う゛お゛ぉい!もう機嫌直ったのかぁ」
「まーね。この程度のことで王子が悩むとかありえねーし」
「そうだなぁ。ありえねぇな」
うしし、と独特の声を零してベルフェゴールは笑う。
その姿を見たスクアーロは「漸く氷雨のことを諦めたか」と思って、満足そうに笑みを浮かべた。なにやら、やり切ったような顔である。これで同僚たちの懸念も杞憂で終わるだろうと、少年の背を見送りながら彼は思った。