第4章 【03】鳥籠のジュリエッタ
(……全部置いてってんのかよ)
その中には、ゲームソフトとハードが沢山詰まっていた。きちんとハード別・五十音順にソフトを並べているところが几帳面な氷雨らしい。
ベルフェゴールは、携帯ゲーム機のひとつを手に取って、そこに入っているソフトを取り出してみる。つい最近買ったシューティングゲームだ。
(ま、持ってく必要ねーか)
別に氷雨は取り立ててゲーム好きというわけでもなかった、とベルフェゴールは記憶している。
コントローラーやハードを見せると「これ、どうやって使うの?」と真顔で言ってくるような女だった。何処のお姫様だよ、と思ったことを彼は覚えている。殺しの方法は知ってるくせにゲームのやり方は知らない異様な女。鍵の件のときと同じように、幼いベルフェゴールは氷雨に言ってやった。
『知らないなら覚えろ。んでオレの相手が出来るレベルになれ。命令』
氷雨は困ったような顔をしていたが、それでも頷いたと思う。彼が要求したレベルに達することが出来たかどうかは定かではないが、氷雨は努力していたようだった。時折ベルフェゴールも驚くような裏技を編み出したりもした。実はパズル系のゲームは氷雨のほうが戦績が良い。
勝てば喜ぶし、負ければ悔しがる。でもいつも楽しそうに笑っていた。なにが楽しかったのかは、彼にはわからない。「オレもまあまあ楽しかったけどさ」と呟いてからベルフェゴールは思わず笑ってしまった。おい、過去形かよ。だってもうこの部屋に氷雨はいない。帰ってこない。
携帯ゲーム機とソフトを持ったまま、ベルフェゴールはベッドに寝転がった。あいつ、よく寝転がってゲームやってたなと思う。また過去形。
「あ゛ー……なんだこれ。うぜー」
さっきから氷雨に関することしか思い浮かばない。自分のことながら柄じゃなさ過ぎて鳥肌が立ちそうだ、とベルフェゴールは思った。
逃げんなよって言ったじゃん。おまえ、了解って答えたじゃん。なんだよ全部嘘かよ。そんなだからタチ悪い女だって言われんだよ。最低最悪。あんなやつ嫌い。嫌いだ。嫌いなんだよ。いっつもへらへらして肝心なこと何も言わねーで結局こんな風に出ていくとか何考えてんだあの女。