第4章 【03】鳥籠のジュリエッタ
夕食を終えて一足先に食卓を後にしたベルフェゴールは、手持無沙汰な様子でアジト内を歩き回っていた。何処に行ったらいいのかわからない。それに、じっとしていると先程の「なにかを殺したい」という衝動が襲ってくるので、己の心を落ち着かせる意味でも歩き回るのが一番の上策であった。
ぐるぐるぐるぐる。ひたすら歩いた末に彼が辿り着いたのは、氷雨の部屋だった。一瞬、どーしてこんなとこ来てんだろ、と思った彼だが、踵を返すことも出来ずにドアノブへ手を伸ばす。軽く捻ってやると、いつもと同じように扉はあっさりと開いた。
「そういや、いつも開いてたな……」
ベルフェゴールは、ぽつりと呟いた。その理由が自分にあることを彼は知っている。
いつの事だか覚えていないが、早朝にこの部屋を訪ねて鍵が掛かっていたことがあった。その時、今よりももっと幼かったベルフェゴールは鍵をぶち壊して部屋に入った。そして、飛び起きた氷雨に向かって言ったのだ。
『今度から鍵とか面倒なモンかけんな。これ王子の命令』
たしか、氷雨は笑って頷いたと思う。その日からだ。部屋の主がいようといまいとベルフェゴールがこの部屋を訪ねるときには常に鍵が開いているようになった。それが普通になった。
部屋の中は真っ暗だった。誰もいないのだから当然である。ベルフェゴールは手探りで照明のスイッチを入れた。パッと明るくなる室内、前に訪ねたときと変わらない、簡素で味気ない部屋だ。パソコンもベッドもCDコンポもテレビも全てがそのまま残っている。全部置いていったのだろうか、とベルフェゴールは思った。ずかずかと部屋に上がり込んで、テレビの横にあるカラーボックスを引きだす。