第4章 【03】鳥籠のジュリエッタ
『 鈴川 氷雨を独立部隊ヴァリアーから解任し、コメータファミリーのボス・鈴川 黎人にその身柄を預けることとする。 』
あのシスコンいつの間にボスになりやがったんだよ、とベルフェゴールは呟いた。
殺してしまいたいと、思った。しかし、誰を殺したいと思っているのか彼にもわからなかった。氷雨を殺したいのか鈴川 黎人を殺したいのかボンゴレ本部の人間たちを殺したいのか、それともボスを殺したいのか。……いや、最後のはあり得ない、と思いながらベルフェゴールは深く息を吐いた。心臓が、ばくばくと鳴っていてうるさい。動揺しているとは認めたくなかった。
「わけわかんねー」
それはベルフェゴールが他の誰でもなく今の自分自身に対して抱いた感想だった。そう、わけがわからない。どうしてこんなにも心臓がばくばくと音を立てるのか。どうして立っているのも辛いくらいに足から力が抜けていくのか。彼は自分自身が一つも理解できなかった。
ああ、やっぱり、殺してしまいたい。なんでもいいから。だれでもいいから。
「う゛お゛ぉい!邪魔だぁ、ベル!」
「うわマジ面倒で空気読めないやつ来た」
「はあ?」
廊下の向こうからスクアーロが我が物顔で歩いてきた。機嫌の良さそうな様子を見るかぎり、出張任務は大成功だったようである。
ベルフェゴールは若干げんなりした様子でスクアーロに視線を向ける。持っていた書状はとりあえずポケットに突っ込んでおいた。まだ、どんなふうに氷雨がいなくなったことを話せばいいのかわからないからだ。ああ、スクアーロを殺すのもいいかもなと彼はぼんやり考えた。さすがにボスの部屋の目の前で死闘を繰り広げるのは無理があるが。
「命拾いしたね、カス鮫」
「なんの話をしてんのか俺にはさっぱりわからねぇぞ」
「でもあとで殺す」
「はあ?」
スクアーロはクエスチョンマークを飛ばしながら首を傾げることしかできなかった。殺すと言われることには慣れているので、今更どうとも思わない。しかし今日のベルは様子がおかしいことに気付く。脈絡のない会話もそうだが、普段から纏っている狂気の色というか尊大な雰囲気というようなものが今は薄れているように思える。