第4章 【03】鳥籠のジュリエッタ
ベルフェゴールを呼び止めたものの、XANXUSは視界に彼を捉えていなかった。まるで考え事でもするかのように逸らされた視線は右斜め横に向かい、ずっと遠くを見ているようにも思える。XANXUSは暫く黙り込んだ後に、ゆっくりと口を開いた。
「鈴川 氷雨が辞めた。他の奴にも伝えておけ」
「……え?なに、それ。どーいうこと」
「そのままの意味だ。これを見りゃわかる」
XANXUSはぐしゃぐしゃになった書状をベルフェゴールに投げて寄越した。ベルフェゴールは書状を広げて食い入るように内容を読む。
正直なところ、彼はボスの言葉を上手く理解することができていなかった。ヴァリアーを抜ける、という行為が簡単に出来るものではないと思っていたし、氷雨がヴァリアーを抜けるはずがないという妙な自信を持ってもいたからだ。その考えは間違っていたのだろうか。
しかし、彼は書状を読み進めるうちに理解した。もっと別の権力が動いた結果、氷雨は出ていくことになったのだと。書状を持つ手には自然と力が入り、また新しい皺が刻まれる。
「……こんなモン破り捨てればいいじゃん。なんで言うこと聞く必要あんの」
「なんだ、文句があるのか」
「そうじゃない、けど。ボンゴレの言いなりになんのはムカつくっていうか…」
「まだ喧嘩を吹っ掛ける時期じゃねぇ」
「……どーいうこと?」
「そのうちわかる」
出ていけ、と言ってXANXUSは椅子に深く腰掛けて目を閉じた。これ以上話す気はないという態度だ。
ベルフェゴールはまだ何かを言いたそうにしていたが、少し躊躇った後に大人しく部屋を出ていく。さすがの彼もボスに逆らう気にはなれないらしい。パタン、と扉を閉める音が妙に大きく響いた気がした。彼は閉めた扉に寄りかかって、もう一度書状に目を通す。書いてあることは変わらない。一言一句、変わらない。