第4章 【03】鳥籠のジュリエッタ
「ベル、ボスに報告書持っていってくれるかい」
「やだね」
「僕、これから別の任務があるんだ。頼んだよ」
「やだ……って、おい!チビ!」
任務が終わってアジトに帰ってくるなり、マーモンは姿を消した。広いエントランスに一人残されたベルフェゴールの足元にばさりと音を立てて報告書の紙束が落ちる。彼は舌打ちをしながらも渋々それを拾い上げた。
「出来てんなら持ってくくらいしろっつーの」
そう吐き捨ててはみるものの既にいなくなった者に対して悪態を吐くのはわりと虚しい。ベルフェゴールは手元の報告書をじっと見つめて思案を始めた。
マーモンに当て付けるなら、この報告書をマーモンの部屋に放り出して知らぬ顔をしていればいい。しかし、報告書の提出が遅れればボスはいい顔をしないだろう。ただでさえ最近は任務が多いのだから尚更だ。正直言ってボスの反感を買うのは避けたい。
ベルフェゴールは「しょうがねー」と言いながら、XANXUSの部屋を目指して歩き始める。マーモンとボスを天秤に掛けたところで勝ったのはやはりボスであった。
「ボス、いる?報告書持って来たんだけど」
「そこに置いておけ」
「はーい」
ノックもそこそこに部屋の中へ足を踏み入れたベルフェゴールは、XANXUSに言われた通り机の右端に置かれた書類の山の一番に報告書を重ねた。空いた手をポケットに突っ込みながら「次の任務入ってる?」と問いかけてみると、XANXUSは「ない。待機してろ」と答える。
それは残念だ、とベルフェゴールは思った。マーモンは面倒くさそうにしていたが彼は任務が増えても別に嫌だとは思わない。寧ろ嬉しいとすら思うような男だった。彼にとって殺しの任務は仕事であり趣味である。任務が増えて殺せる人間が増えることは、楽しいお遊びの時間が増えることと何ら変わりない。
「じゃ、オレ行くね」
「ああ…………いや、待て」
「へ?」
任務がないなら長居は無用だと思い、部屋から出て行こうとしたベルフェゴールを呼び止めたのは他でもないXANXUSだった。
ドアノブに手を掛けた状態で振り返ったベルフェゴールは、思わず間の抜けた声を上げてしまう。こんなふうにXANXUSに呼び止められたことは初めてだったのだ。任務以外の話があるのか?と不思議に思いながらも、彼はXANXUSに向き直る。
