第4章 【03】鳥籠のジュリエッタ
ただ闇雲に連れ戻そうとしていると思われたなら心外だよ、と彼は続けた。5年の間に彼も相応の成長を遂げ、マフィア界のなんたるかも多少は学んだのだろうか。
ここにきて、いよいよ氷雨の中で「日本に帰る」という選択肢が現実味を帯びてきた。書状を持つ手にも若干力が入る。
「……ボスに、話してくるよ」
「大丈夫?姉さん、僕も行ったほうがいい?」
「ううん。ボス、人と会うの嫌いだから。私だけで行ってくる」
「そっか……なにかあったら呼んでね。逃げてね」
「あはは、大丈夫だよ。ちょっと待ってて」
心配そうな様子で姉を見る黎人に対して、氷雨はつとめて明るく笑ってみせた。立ち上がって「いってきます」と言いながら片手を挙げる。黎人は未だに心配そうな顔をしているものの「いってらっしゃい、姉さん」と言葉を返した。
氷雨は書状を持って応接室を出ると、ヴァリアーのボスであるXANXUSの部屋へと向かう。応接室の扉の前で待機していた隊員には暫く見張りを続けるようにと指示を出した。
廊下を歩いていく彼女の表情は、険しかった。