第4章 【03】鳥籠のジュリエッタ
「ずっと思ってた。姉さんにこんな場所似合わない、って。……でも父様は僕の話を聞いてくれなくて……ボスになったら、一番最初に姉さんを連れ戻そうって決めてたんだ、僕」
まるでサプライズプレゼントの説明をするかのように、どこか弾んだ声で黎人は話す。その言葉はひたすら実直で、純粋で、確かに彼の本心であった。
黎人は姉を慕っている。それはもうずっと前、氷雨が実家を出ていく前から変わらない。優しくて強くて凛々しい姉に彼はずっと憧れを抱いていた。姉がイタリアに行ってしまったときは悲しかったし、姉に凄惨で血生臭い仕事をさせているヴァリアーには憤りを感じた。彼は幼少期から何度も父親に「お姉ちゃんを連れて帰って」と頼んだが、何故だか父親は首を縦に振ってくれない。
だから、少年は決意したのだ。自分がボスになったら姉を取り返す。そして優しい姉に相応の穏やかな生活を贈ろう、と。
「本当はもっと僕が頼りになるボスになってからのがいいんだろうけど、やっぱり姉さんをこのままにはしておけない。……遅くなってごめんね、姉さん」
「黎人……」
氷雨が漸く絞り出した声は、弟の名を紡いで終わる。それ以上なにも言えなかった。弟が自分を慕ってくれていることは知っていた。それを嬉しいとも思っていた。けれども、ここまでの行動を伴うものだとは思っていなかった。
今になって初めて黎人の心のうちに触れたような気分になる氷雨は、彼女の右手を握ってくる弟の手を握り返すことも振り払うこともできない。彼の申し出はそれだけ彼女にとって予想外のものだった。
「でも、ヴァリアーを抜けるなんて出来ないと思うん、だけど」
「あ、心配いらないよ。ちゃんとボンゴレ本部に許可を貰ってきたから」
「ボンゴレ本部に?」
「うん。ほら、ちゃんと書状も持ってる」
黎人はジャケットの内ポケットから封筒を取り出して氷雨に渡す。彼女が中身を拝見すると、それは確かにボンゴレ本部の書状であった。
「どうやって、こんなもの……」
「姉さんったら……僕だってちゃんと考えてるんだよ。ただ連れ戻そうと思ってもダメでしょ。抜ける理由、これで十分だよね?」
驚愕の表情を露わにしている姉を見て、黎人は拗ねたような顔をする。