第4章 【03】鳥籠のジュリエッタ
姉の問いを受けた黎人はバッと顔を上げてじっと氷雨の顔を見る。そして泣き笑いのような、複雑そうな表情で微笑んだ。
「……やっぱり、姉さんは姉さんだね」
「え?」
「僕と全然違う。……僕は父様と母様のことを知ったとき、もっと取り乱しちゃって……皆にも迷惑かけちゃって」
「……それが、普通の子どもの反応だよ。恥じることじゃない」
氷雨は苦笑いをこぼした。そう、彼の反応は間違っていないと思う。落ち着いている自分のほうがおかしい。
黎人は「ありがとう」と呟くと一度深呼吸をした。そして、今までの経緯を語り始める。
両親の死亡が確認されたのは、一週間前のこと。突然ボスを失ったコメータファミリーは混乱に陥った。
次期ボスの座に着くのは誰か、と。
氷雨たちの父親である現ボスはまだ若く、次期ボスに関する相談はなされていなかったのである。ファミリーといえども一枚岩とは言い難い。誰もが「ボスになれるかもしれない」と考えられる状況下では、野心の高い者ほど過激にボスの座を手に入れようとした。
あわや内乱に発展するかと思われたところで、混乱を収めたのは前々ボス――氷雨たちの祖父の兄に当たる――であった。歴史の長い組織は、往々にして古参の意見が強いものである。ましてボス経験者が次期ボスを指名するとなれば、多少の文句は飛び交ったものの強行手段に出てまで逆らおうとする者はいなかった。
そして、最終的に白羽の矢が立ったのは前ボスの嫡子である黎人だった。
弟の話を最後まで聞き終えると、氷雨はそう、と小さく呟いた。自分の知らないところで両親が死に、ファミリーは世代交代を余儀なくされていた。一度話を聞いただけで理解するにはあまりに事が大きすぎる。
「今は、おじい様たちも手伝ってくれて何とかやってるよ」
「それならよかった。でも……よかったの?」
「ボスになったこと?正直言うとまだ怖いよ。父様から正式に継承するにしたって、もっと先の事だと思ってたから」
「そうだよね。そう思うのが、普通だよ」
氷雨は唐突に立ち上がった。不思議そうな顔をして姉を見る黎人の視線を受けながら、彼女はテーブルを半周すると弟の隣のチェアに改めて腰を下ろす。そして、まじまじとその顔を見た。