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THE WORST NURSERY TALE

第4章 【03】鳥籠のジュリエッタ


 カタカタとキーボードを叩く音が静かな部屋に響く。
 氷雨は自室でパソコンに向かい、済ませてきた任務の報告書を作成していた。元よりこういった作業のほうが性に合っている彼女は、外回りの任務よりもこうして事前事後の企画書や報告書を書いているほうが好きだ。
 不意にコンコン、と扉をノックする音を聞いて氷雨は顔を上げた。


「はい、どうぞ」

「失礼する」


 最初から鍵など掛かっていない扉が開く。そこに現れたのは、ヴァリアー幹部の一人、レヴィ・ア・タンだった。珍しい来客だなぁ、と思って氷雨は何度か瞬きをした。そういえばスクアーロが任務で出掛けていたか。
 レヴィは部屋に一歩入ったものの、パソコンデスクの前に座っている氷雨を視界に捉えるとその場で足を止めた。


「ヌ…仕事中だったか」

「もう終わるから大丈夫。どうしたの?」

「お前に客が来ている。コメータファミリーの者だ」

「え……早いね、今回は」


 氷雨はレヴィの言葉を聞いて目を丸くした。恐らく弟が会いに来たのだろうと察しはつくが、前回の面会からまだ二週間ほどしか経っていない。今までずっと一ヶ月おきにやってきていただけに「随分早いな」という感想を彼女は持ってしまう。


「大切な話があると言っていた。会うのか?」

「ん、会うよ。応接室でいいのかな」

「ああ」


 俺は部屋に戻る、と続けて、レヴィは部屋を後にした。用事が終わればすぐに帰ってしまうところはなんとも彼らしい。
 氷雨は「ありがと」と礼を述べて、出ていくレヴィに片手を振った。そして、作り途中の報告書を保存してパソコンの電源を落とす。任務に出掛けるときと同じように隊服のコートに手を伸ばしかけて思わず苦笑いした。ある意味職業病ともいえる行動だ。あの子は、この格好をすると嫌な顔するんだよねぇと思いつつ、クローゼットからカーディガンを引っ張り出して羽織る。


「大切な話、ねー」


 客間に向かう道中に、ぽつりとこぼすように呟いた。皆目見当はつかないが、あの弟が大切な話だと言うのだからそれなりに重要な話なのだろう。客間の扉の前にはヴァリアー隊員が二人、見張りについていた。氷雨が近付いていくと彼らは深々と頭を下げる。彼女は二人に「ご苦労さま」と告げてから、客間に入った。
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