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THE WORST NURSERY TALE

第4章 【03】鳥籠のジュリエッタ


「あ、そーだ」


ベルフェゴールは急になにかを思い出したような仕草を見せたかと思えば、その手で氷雨の細い腕をぐいっと引っ張った。突然引っ張られた氷雨は驚く間もなく、二、三歩よろけながら彼に近付く。


「ゲームやろうぜ。この前の続き」

「ええ?あれは私の勝ち越しで…」

「王子が負けとかありえねーから。勝ち逃げは許さない」

「えぇ……!」


 ベルフェゴールは氷雨の腕を掴んだまま相手のペースなどお構いなしで歩き出す。氷雨は半ば引きずられるような形でついていくしかなかった。
 珍しく勝てたのにまた負けるのはちょっと勿体無いな、と思わないでもない。しかし、そんなことよりももっと重要な事柄があるのを氷雨は思い出す。先程までのXANXUSとの会話である。


「あ、ま、待ってベルくん。私これからまた任務あるの」

「ちょっとくらい時間あんだろ」

「いや準備もあるから……それにスクアーロに会わないといけないし!」

「……はあ?」


 ぴたり、とベルフェゴールは足を止めて氷雨を振り返った。目元は見えないものの不機嫌そうなオーラを惜しげも無く出している。「なんで、スクアーロ?」と続けた声は普段よりも低かった。
 最早ナイフが飛んできてもおかしくなさそうな雰囲気に氷雨もヒクリと表情を引きつらせる。ここでまたいつもの追いかけっことなれば、スクアーロに会うどころか無事に任務へ出発できるかどうかも危うい。


「ぼ、ボスからスクアーロへの伝言頼まれてて……」

「なんて?」

「門外顧問に探り入れてくるように、って」

「ふーん」


 氷雨は正直に話してみたのだが、ベルフェゴールの機嫌は直らないようである。彼女の腕を掴んでいる手からは依然として力を緩める気配が感じられない。
 彼は暫し黙り込んだ後に、またにんまりと笑って見せた。


「まーいいじゃん。そんなん後でも」

「あ、あんまりよくないと思うんですけど」

「どーせ遅くなっても怒鳴られんのスクアーロだしー。いい気味だね」

「えー、そんな……」


 どうやらベルフェゴールの中には諦めるという選択肢がないようである。彼はまた氷雨の腕を引っ張って歩き出した。
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