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THE WORST NURSERY TALE

第4章 【03】鳥籠のジュリエッタ


「門外顧問の動きが少々、気にかかります。静かすぎるかと」

「フン、家光か。奴なら何かを企んでいても不思議はねぇ」

「探りますか?」

「てめぇは別の任務があるだろう。ヒマな鮫に行かせろ」

「わかりました。伝えておきます」


 言われた通りの場所に茶封筒の一つを置いて氷雨は深々と頭を下げた。彼女にとって、もうXANXUSはボス以外の何者でもなかった。
 この二週間で彼のボスとしての資質も手腕も嫌と言うほど見てきている。たった二週間だと人々は言うかもしれないが彼女にとっては長く密度の濃い二週間だった。命じられることの一つ一つが、苛烈で、突飛で、そして恐ろしい程に容赦がない。そのすべてがボンゴレを手に入れるためだとXANXUSは言うが、氷雨にはその意味も彼の真意もよく理解できなかった。
 ……やっぱり、この部屋の空気の重さは好かない。そう思った氷雨は早々に退散すべく「失礼しました」とXANXUSに声を掛けてから退室した。呼び止められなかったということは、出ていって良かったということだろうか。ボスは口数が少ないので氷雨はまだその辺の判断には迷ってしまう。
 パタン、と扉を閉めると同時に肩から力が抜けた気がした。


「氷雨じゃん。任務終わったの?」


 廊下の向こうから明るい声が掛かる。氷雨が顔を上げると、そこには此方に向かって歩いてくるベルフェゴールの姿があった。ブーツの端に赤黒い液体がこびりついている所を見るかぎり彼も任務帰りか。それとも趣味の帰りだろうか。
 先程までの緊張が一気に抜けたことも相俟って、氷雨は彼の顔を見るとへらりと笑ってしまった。ベルフェゴールは不思議そうに首を傾げる。


「なに?いいことでもあった?ししっ、きもちわりー」

「や、そうじゃないけど。って、気持ち悪いはないでしょ」

「だって急に笑うとか変じゃん」

「そんなことないです。た、たぶん」

「うしし、弱気ー」


 ベルフェゴールはにんまりと口角を上げて楽しそうに笑った。彼に近付くほどに鉄の匂いは強くなるが、氷雨はまったく気にする様子もなく微笑み返す。
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