第2章 【02】魔法の鏡は誰のもの?
「料理か。珍しいことしてんなぁ」
「大したもんじゃないけどねー」
「いや、女らしくて結構じゃねぇか」
「あはは、ありがと」
氷雨は照れ臭そうに笑った。どうにもこういった類いの褒め言葉には弱いのだ。暗殺の腕を褒められれば素直に嬉しいと思うのに。
ベルフェゴールは、そんな彼女の様子を見ると何故だかイライラしてくる。理由なんて知らないし、考えようとも思わない。だけどイライラする。
「カス鮫、セリオーネに行ってたんだろ?どうだったんだよ」
「カスだと……っち、現ボスや本部は何も知らなかったらしい。違約金は責任持って払うとよぉ」
「そっか。ミカエルさん、何がしたかったんだろうねぇ」
「馬鹿の考えることは分からねぇなぁ。まして奴はもう死人だ」
「そうだよねぇ……」
氷雨はそれ以上何も言うことができなかった。同情をしているわけではない。ただ、理由のわからない凶行ほど怖いものはないと彼女は思っている。恐らく彼らの狙いはヴァリアーの保持する情報だったのだろうが、一体何のためにそんなものを欲しがったのだろうか。
考え込んでしまった氷雨を見てベルフェゴールは首を傾げたが、ふと何か思いついたような顔をするとスクアーロに向き直った。彼の手には、氷雨が作り置きしていたおにぎりがひとつ。
「ま、お疲れってことで食えば?ほらよ!」
「う゛お゛っ……てめぇ押しつけるんじゃ、むぐっ」
「!?ベルくん、それ……!」
氷雨は少年の思惑に気づいたものの時既に遅し。スクアーロの口の中にがっつりとそれは押し込まれている。
慌てる氷雨を前にしてスクアーロは嫌な予感がした。そして、その予感が当たっていることをすぐに思い知るのである。
「……!!……!?」
「す、スクアーロ、出しちゃっていいよ?吐いちゃって、」
「うっわー女が作ったもんを吐き出すとかありえなくね?スクアーロって最低ー最悪ーカスの中のカスだよなーさっすがカス鮫ー」
「………っ!!」
スクアーロはぶんぶんと首を横に振って二人に背を向けた。梅干しの酸っぱさと戦っているようだ。
同情の視線を送る氷雨の横でベルフェゴールは楽しそうに笑っている。