第2章 【02】魔法の鏡は誰のもの?
「…………」
「べ、ベルくん……大丈夫?」
「……すっぱ!!なんだこれ、すっぺーんだけど!?」
「だから言ったのにー!それ梅干しだよ!」
「なんか知らねーけど、もっと必死に止めろ!!」
辛うじてすべてを飲み込むと、ベルフェゴールは今にもナイフを投げ出しそうな剣幕で氷雨に詰め寄る。彼女は「ごめん」と謝りながら勘弁してとばかりに両手を挙げた。キッチンで戦闘をするのは避けたい。
ベルフェゴールは、梅干しおにぎりをさっき置いたおにぎりの隣に並べる。
「もっとマシなもん出せ。今すぐ出せ。出さねーと殺す」
「梅干しは日本だと定番なんだよ…」
「オレの口には合わない」
「えー…んー……じゃあ、焼きおにぎりにしてみるか…」
「さっさとしろ」
「はい!」
氷雨はわたわたしながら今度は焼きおにぎり作りに取り掛かる。白米のおにぎりに味噌ダレをつけて焼く……調理時間こそ短いが、無言で不機嫌オーラを飛ばす少年が隣にいるので彼女は生きた心地がしなかった。
出来上がった焼きおにぎりを皿に乗せる。そのままだとたぶん熱くて持てないので、フォークと一緒にベルフェゴールへ差し出した。
「どうぞ」
「……ん」
ベルフェゴールは言葉少なに皿を受け取ると、暫し焼きおにぎりを観察した後に一口大を口に放り込んだ。もぐもぐ。
彼が食べている様子を眺めながら、氷雨は内心ハラハラしている。当然だ、これも駄目だったらサボテンに一歩近づいてしまう。
「どう、かなー?」
「……まあまあ。さっきよりマシ」
「そ、それはよかった」
ひとまずサボテンは回避できたようだ、と氷雨は安堵した。褒められたとは思えないが彼が二口目に手を付けたということは満更でもないらしい。
ぱくぱくとベルフェゴールが食べ進めた結果、焼きおにぎりはすぐになくなってしまう。
「これ、もう一個つくれよ」
「え?食べるの?」
「まだ口の中が酸っぱいから仕方なくな」
「あ、そう…了解しました」
「う゛お゛ぉい!お前らキッチンで何してやがる」
「スクアーロ!」
氷雨が焼きおにぎり作りに取り掛かったところにまた飛び込んできた者が一人。珍しく黒スーツに身を包んだスクアーロである。彼はずかずかと歩み寄り、氷雨の手元を見た。