第2章 【02】魔法の鏡は誰のもの?
時刻は午後4時をまわったあたり。なにやら物音のするキッチンを覗いたベルフェゴールは、目の前に広がる光景に首を傾げた。
「……なにしてんの?」
「あ、ベルくん。間食の準備ー」
まだ中途半端な時間ということもあり、シェフ達の姿は見えない。代わりに氷雨がそこにいた。氷雨は「はい、できた!」と言って白米の塊を皿に置く。綺麗な三角形に握られた白米。その料理名を知らない者は滅多にいないだろう。日本人には。
「なにそれ、米?なんでそんなことしてんの?」
「あれ、もしかして、おにぎり知らない?」
「知らねー。なんだよ日本食?」
「うん、日本ではポピュラーな料理だよ。簡単に作れるし」
こうやってね、と言って炊飯器から新たな白米を取り出した氷雨は「おにぎり作り」を実践してみせる。最後に海苔を巻けば完成だ。
ベルフェゴールは彼女の隣で興味深そうにその行程を眺めていた。
「簡単っつーか米まとめて握っただけじゃん」
「そうとも言うねー。食べる?」
「……どーしてもって言うなら食べてやらないこともない」
「あは、じゃあどーしても食べてください。折角作ったから」
氷雨はニコニコと笑顔を浮かべておにぎりを差し出した。
それを受け取ったベルフェゴールは、物珍しそうにしげしげとおにぎりを色んな角度から観察する。変哲のある形をしているわけではないのだが、やはり未知の料理というだけあって不審感が拭えないのかもしれなかった。
「このまま食うの?」
「そうそう。ハンバーガーみたいに、がぶっとね」
「ふーん」
新たなおにぎりを握り始めた氷雨を横目に見つつ、ベルフェゴールはおにぎりに齧り付く。当然ながら米の味がする。塩で味をつけているようだが、別に特別美味しいもんでもないな、と思った。
「美味しい?」
「なんかフツー。この黒いやつ、味薄くね?」
「海苔?うーん、それはそんなもんだと思うけど……」
「ん?そっちはなんか入れてんじゃん。それもちょーだい」
「あ、これはちょっとやめたほうが」
「なんだよ。いいから寄越せ」
ベルフェゴールは一口だけ食べたおにぎりを皿の上に置いて、氷雨がいま握り終えたおにぎりに手を伸ばす。彼女の言葉を遮っておにぎりを奪い取ると、ぱくりと齧り付いた。