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THE WORST NURSERY TALE

第1章 【01】プロローグ


 氷雨は戻ってくると「あっ」と少しだけ驚いたように声をあげた。


「消しちゃったの?」

「ん、邪魔だし。なあ氷雨、暇、遊んで」


 ベルフェゴールは、うしし、と特徴のある笑い声を零しながら部屋に一つだけのベッドに腰を下ろすと、いつの間に取り出したのかトランプのカードを慣れた手つきで切っている。
 うーん…と若干渋るような表情を見せる氷雨。


「報告書途中だったんだけど…」

「王子やさしーから、ちゃんと保存しといてやったぜ」

「や、それより、」


『う゛ぉおおい!くそガキぃい!他人の仕事の邪魔してんじゃねぇぞぉお!』


「……なんでスクアーロの声が聞こえんだよ」

「携帯、ハンディにして報告してたから……言うの遅くてごめん」


 あちゃあ、と言いながらわざとらしく額に手のひらを当てた氷雨は、パソコンの横に置きっぱなしにされていた携帯電話を手にとって、そそくさと洗面所に消えていく。その場で話そうとしなかったのは言わずもがな、ベルフェゴールがそれはそれは不機嫌な様子だったからである。
 ひとり残されたベルフェゴールは、トランプをベッドに放る。カードが弧を描きながら散らばり、床にまで落ちていった。苛立ちを持て余し、ベッドに寝転がる。自分の部屋のベッドより狭いな、と思った。


「ベルくん、待たせてごめんねー。何する?スピード?ポーカー?」

「……スピード」

「了解!」


 洗面所から帰ってきた氷雨は、携帯電話をデスクに戻して床とベッドに散らばったトランプを集め始める。
  ごろりと寝返ったベルフェゴールが目を向けると、彼女はにっこりと笑って集めたトランプの半分を差し出した。彼は起き上がって、それを受け取る。そして、それまで一文字に結んでいた唇に笑みを浮かべた。


「ししっ、負けたほうが罰ゲームな」

「あはは、それは負けらんないね」


 二人の笑い声が響く。
 ベルフェゴールがようやく自分の客室へ戻ったのは、それから2時間ほど後のことであった。




一人はワガママ尊大な王子様

(うししっ、I'm winner!)
(なんてこった……)

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