第2章 【02】魔法の鏡は誰のもの?
結局のところ、最初から最後までヴァリアーが一枚上手だった。それだけの話だ。
ミカエルは氷雨を騙したつもりでいたが、騙されていたのは彼のほうだった。彼からブレスレットを貰った日、氷雨は帰路の車内で発信器と盗聴器を発見した。依頼主といえども他人から与えられたものは徹底的に疑う。それは殺し屋として働くうちに彼女が身につけた自己防衛の最たる方法だ。
それから、氷雨はメール等を駆使して幹部陣に連絡を取り、この逆強襲計画が立案され実行されたというわけである。今まで彼女が帰っていたアジトも、ヴァリアーの本部アジトではなく任務時用の別邸だ。彼女らはそこまで徹底して相手を騙した。相手にこちらの情報を与える気など少しもなかった。
ミカエル達が聞いていた会話は、すべてこの計画のために“聞かされて”いたものに過ぎなかったのである。
一足早く、本部アジトに戻ったベルフェゴールと氷雨は談話室で紅茶を飲みながら他の者達の帰りを待っていた。
報告なんてめんどくさい、とベルフェゴールは口を尖らせたが、氷雨は目を覚ます前の屋敷の様子をまったく知らないのだから報告を任されるわけにもいかない。彼女は機嫌を悪くする少年をなんとか宥めていた。何回かナイフは飛んでしまったけれども。
「う゛お゛ぉい!戻ったぞぉ」
「あ、スクアーロ!みんな、お疲れ様」
「ヌ……本当に生きていたのか。無事でなによりだ」
「ホント!もう生きて会えないかと思ったわ~。よく帰ってきたわね、氷雨ちゃん!」
「あはは、私ももう会えないかと一瞬本気で思ったよ」
言っていることは怖いが、氷雨はニコニコ笑顔でレヴィ達に駆け寄った。ルッスーリアは彼女の頭を撫でる。
スクアーロは氷雨の元気そうな様子を見て少しだけホッとしたような顔をしたが、すぐに表情を引き締めると未だに紅茶を飲んでいるベルフェゴールのほうへ歩いていく。その後ろをマーモンがふよふよと着いていった。
「今回の件に関するモンは見つかったか?」
「全然。下っ端脅しても何も言わねーし、ありゃ詳しいことは聞いてませんって感じだったね」