第2章 【02】魔法の鏡は誰のもの?
ピッ
「あ、スクアーロ?こっち終わったぜ。ついでに氷雨も生きてっから」
『そうかぁ。こっちはもう少し掛かりそうだ。おまえら先に帰ってろ』
「了解ー」
ベルフェゴールは報告を終えると通信を切った。ソファに腰を下ろしテーブルに足を乗っけた状態で横に視線を向けると、氷雨がガサゴソと家捜しをしている姿が目に入る。
――ここはミカエルの書斎である。
「なんか見つかりそう?」
「いや、だめだね。それっぽい文書も資料も出てこない」
「大方、実行前に処分したってトコじゃね?」
「そうかもしれないなぁ。パソコンも初期化されてるし」
氷雨は諦めたように息を吐くと肩を竦めてみせた。先程まで床に寝ていたせいか、可愛らしい花柄のブラウスは埃やら血やらですっかり汚れてしまっている。
ベルフェゴールはソファに腰を下ろしたまま改めて彼女の服装をまじまじと眺めると、にやりと笑った。
「にしても、氷雨のそーいう格好が見れるなんてね。超レアじゃん」
「私は正直言って、コスプレしてる気分だよ…」
「マジ似合わないよな、うししっ」
「率直な感想をありがとう」
「うそうそ冗談だっつの。普通には見えるんじゃね」
「…………かなぁ……?」
ものすごく納得できていないっぽい表情で氷雨は首を傾げた。自分の装いを眺めてみるもののやはり言われたことの実感が湧かないのか、きょとんとした様子でいる。
「けど、女ってこえーよな。それで攻撃するとは思ってなかったぜ」
「ああ……ルッス姉さんから貰ったの。面白いよね、役に立つし」
氷雨は黒髪を纏めている簪を外して両手で持つと、指先に力を込めて引っ張った。カチリと音を立てて、ペンのキャップが取れるように簪の外側が外れる。その内から、アイスピックのように鋭く尖った凶器が現れた。
――先程、地下牢で男の腕に刺さったのはこの簪だ。
「コレなかったら助からなかっただろうなぁ」
「おい、オレが一芝居打ってやったこと忘れんなよ」
「忘れてないよー。うん、ベルくんのおかげだね。ありがとう」
「ししし、今回だけだけどな」
ニコニコと笑顔を浮かべて氷雨が礼を述べると、ベルフェゴールは満足そうに口角をつり上げた。