第2章 【02】魔法の鏡は誰のもの?
「なあ、ミカエル・セリオーネの屋敷ってここで合ってる?」
「!……貴様、その装いは……」
「ししし、正解みたいだな。んじゃ、おまえら用済み」
黒服の男達が武器を手に取るより無線を繋げるより早く、ベルフェゴールの放ったナイフは彼らの命を奪い取った。死体を踏みつけてベルフェゴールは屋敷の中に浸入する。
ファミリーの連中はほとんどが出払っているらしく、抵抗らしい抵抗もないままベルフェゴールは屋敷内を踏破する。数人の使用人、数人のメイド、マフィアらしい奴は十人にも満たなかった。
「んだよ、全然手応えねーじゃん」
これならあっちのほうが良かったかも。と悪態を吐きながら歩いていると、一人の男が曲がり角の向こうから飛び出してきた。「ひぃ」と弱々しい悲鳴を上げたその男は一目散に逃げていく。ナイフは男には当たらずに壁に突き刺さった。
「うしし、鬼ごっこかよ。負けねー」
ベルフェゴールは、にんまりと楽しそうに笑みを浮かべ、男を追って走り出す。まるで玩具を追いかける子供のようだった。
身体能力は圧倒的にベルフェゴールのほうが優れている。しかし、地の利は向こうにあった。階段、リビング、各部屋の扉、隠しトラップ。様々な障害を使って男は逃げ続ける。ただ、外にだけは彼も逃げ出せないままでいた。障害物の少ない屋外へ出れば相手の攻撃を避ける術はないからである。そう考えられる程度には、男は賢かった。
屋敷内を散々走り回った末に、彼は地下に続く階段を駆け降りた。ベルフェゴールも後を追う。ナイフの何本かは既に男の体をかすっているため、滴り落ちる血液が道標となった。
薄暗い地下は、まるで罪人を投獄しておくための牢屋のようになっていた。点々と落ちている赤色は一番奥の牢に続いている。ベルフェゴールはそこへ向かってゆっくりと歩いていく。
「行き止まりに逃げ込むなんて、どーいう風の吹き回し?ま、なんでもいーけど」
コツ、コツ、コツ。石造りの床はブーツの足音をよく響かせた。ベルフェゴールの右手には数本のナイフが光っている。