第2章 【02】魔法の鏡は誰のもの?
夕闇迫る黄昏時、イタリアの山奥に佇むとある屋敷をセリオーネファミリーの者達が囲んでいた。あたりは恐ろしいほどに静まり返っており、時折鳥の声や木々のざわめきがやけに大きく響く。
「ブレスレットに盗聴器と発信器か。よくこんなことを考えたな、ミカエル」
「裏をかいただけさ、ロイス。ボンゴレ最強の暗殺部隊となれば、誰も手を出す者はいない。奴等もそう思っているだろうからね」
「なるほど。同盟ファミリーであれば尚更、か」
屋敷の裏の森に身を隠しているのはミカエルとロイスだ。更に彼らの部下、十数名があたりを警戒している。
ロイスが開いているノートパソコンの画面には、イタリアの地図が表示されていた。ミカエルの屋敷にあたる部分で赤い点がチカチカと点滅している。
「まったく呑気な女だったよ。出されたものには疑いもなく口をつけて、与えられたものは身につけるときた」
「くくっ、あれほど仲良くしていたくせに酷い言い様だな」
「言わないでくれ。東洋人の女なら、ああして接したほうが利用しやすいと思っただけさ」
「おまえは本当に末恐ろしい男だよ」
「違うよ。あの女が甘かっただけだ、ヴァリアーもね」
「それはどうだろうなァ」
低く、鈍く、轟くような声が響いた。
ミカエルとロイスは、瞬時に身構えてあたりを見回す。しかし人影は見当たらない。「うわ、あっ」どこからか悲鳴になり損ねた哀れな声が聞こえた。
悪い予感が走る。二人は動けなかった。
「契約違反だ、ミカエル・セリオーネ」
林の奥でなにかが煌めく。二人がそれに気づいたときはもう遅かった。ドサッと音を立てて、二人の前に落ちてきたのは彼らの部下。先程まで生きていたものだ。
上を見上げると、木の枝の上に銀髪の男が立っているのが見えた。その男の名を知らない者は、この世界ではそうそういないだろう。
ミカエルは、震える声でその名を紡ぐ。
「スペルビ・スクアーロ、だと……馬鹿な……!」
「馬鹿はテメェだ。わざわざ俺達に喧嘩を売るとは、命が惜しくねぇらしいなァ」
「何故おまえがここに……!」
「はっ!……そいつは、あの世で考えな!」
スクアーロは剣を構えて、ミカエルとロイスに向かっていく。逃げ場などない。
断末魔の叫び声が森中に響き渡った。