第2章 【02】魔法の鏡は誰のもの?
今日も朝が来る。氷雨はいつもと同じ時間にベッドから起き上がると昨日準備しておいた洋服に着替える。そろそろ服のストックも切れてきそうだ。通販で新しい服でも頼もうかな、とぼんやり思った。ふわふわのスカートの内側にガンホルダーを装着し、愛用の拳銃を固定する。スカートは武器を隠すのに便利だと思うが動きにくいのが難点だと氷雨は一人ごちた。
昨夜、ルッスーリアから貰った簪で髪を一纏めにしてみる。顔がはっきり出てしまうのでちょっと不味いかもしれないと氷雨は考えたが、折角の貰い物だからつけられる時につけておくことにした。アメジストの花は、可愛らしくて少し照れ臭かったが。
今日はいつもの運転手が不在のため、氷雨が自分で車を運転してミカエルの屋敷まで向かう。
すっかり顔見知りになった黒服に挨拶をしてから、ミカエルの書斎に行く。
「やあ、氷雨さん。おはよう」
「おはようございます。今日も宜しくお願いします」
「こちらこそ。少し準備しないといけないことがあるから、君はそこでお茶でも飲んでいて」
ミカエルは柔らかな微笑を湛えて彼女を出迎えた。めずらしくネクタイを締めている。氷雨は首を傾げて「今日はどこかにお出かけですか」と尋ねると、彼は「そんなところかな」と言って笑った。
すぐにメイドが紅茶とお茶菓子を持ってきた。氷雨が屋敷にあがるときには、いつも用意してくれているらしくほんの少しの待ち時間にもこうして紅茶が出てくるのがここ一週間で普通になっている。
「いただきます」
依頼主が出してくれたものに手をつけないのも宜しくないので、氷雨は初めてこの部屋に来たときと同じようにソファに腰を下ろした。目の前に置かれたティーカップを持ち上げて紅茶を飲む。
ミカエルは携帯電話で誰かと連絡をとっているようだ。何度も電話をかけ直し、30分ほど時間が経った頃だろうか、彼は黒いスーツに袖を通して立ち上がった。
「お出かけになりますか?」
「ああ、そろそろ時間だ」
氷雨はティーカップを置いて立ち上がる。