第2章 【02】魔法の鏡は誰のもの?
その日は、結局何の問題もなく終わった。氷雨は、事ある毎に気を遣われるのに慣れず「気を遣わなくていいです」と言ってみたが「女性に気を遣わないイタリア男はいないよ」と笑われてしまった。では、自分が今まで会ってきたイタリア男の大半はどうなるのだろう。自称イタリア男なのか、と氷雨は思う。
次の日も、持ちうる限りの知識で普通のご令嬢ファッションをつくって護衛に臨んだ。やっぱりなにも起きなかった。護衛とは暇な任務なんだなぁと思っていたら、その次の日も、その次の日も問題は起きることがなく、気づけば一週間もの日々が過ぎていた。
今日もまた依頼主のお供をするだけで一日の仕事を終えた氷雨はアジトに帰ってきた。まっすぐにダイニングへ向かう。
「あら、氷雨ちゃん。おかえりなさい!」
「ただいまー。ルッス姉さんもお疲れ様」
「フフ、ありがと!今お茶いれるわねー」
先客のルッスーリアに挨拶をしてから氷雨は向かいの席に腰を下ろす。お茶を飲んでいたらしいルッスーリアは立ち上がって新しいティーカップを持ってくると、氷雨の分の紅茶を注いだ。ついでにクッキーも皿に並べて持ってくる。
「最近、帰りが遅いわよね。どうしたの?」
「あー、依頼主に夕飯食べていけって言われるから」
「まあ!気に入られてるのね~」
「そう、なのかな?まあ優しくはしてくれるけど」
「ウフフ、その人、あなたに気があったりして」
「ええっ、それはないでしょー」
「あら、そんなのわかんないわよ!氷雨ちゃんも満更でもないと思ってるでしょ?」
「……マーモンから聞いたのね……」
ルッスーリアは、肯定も否定もせずにひたすらキラキラと瞳を輝かせている。その様は友人との恋バナに花を咲かせる乙女たちの様子に近いものがある。こうなったルッスーリアにはなにを言っても無駄であることを氷雨は経験から学んでいた。
なんとか話を逸らす手立てはないものか、と思って彼女は話題を探す。