第7章 【04-後編】零時の鐘が鳴るまで
氷雨は勢いよく扉を開けて談話室に飛び込む。真っ先に目に入ったのは、テーブルの周りに集まる人集り。そして、その輪の中に彼女が探していた人物もいた。ごくりと生唾を呑む。
「マーモン、死んでる?」
「生きてるよ。見ればわかるだろ」
君はどうしてそんな聞き方を選ぶんだい、と呆れたように言ってマーモンはため息を吐いた。
氷雨は全身から力が抜けていくような感覚に陥る。マーモンの前までふらふらと歩いていって、彼女は突然しゃがみ込んだ。これにはマーモンを始め、その場にいた幹部達も目を見張る。
「よかったー。なんかマーモンが死んじゃう白昼夢を見てさ……」
「おまえもかぁ」
「……、……え?」
「私たちもそうなの。あの地震のときに見たのよ」
氷雨は驚いてぱちくりと瞬きをする。あの非現実な体験をしていたのは自分とベルフェゴールだけではなかった。その事実は彼女を安堵させたが、同時に恐怖をも感じさせた。
――――“あれ”がすべて“事実”であったら。
マーモンは座っていた椅子からぴょんと飛び降りると、しゃがみ込んだままでいる氷雨の前までトコトコ歩いてくる。そうして動いている姿を見て、彼女は漸くマーモンが生きていることを実感したような気がした。
「けど、それぞれが見たものには少し違いがあるみたいなんだ。君も同じものを見たのか確認するために、いくつか質問をしてもいいかい?」
「あ、う、うん。もちろん」
氷雨は慌てて背筋を伸ばす。何故だがそうしなければならないような気がしたのだ。
マーモンは彼女の挙動に首を傾げながらも、いつも淡々とした口調で質問を始めた。
「そこでは僕が死んでいたね」
「うん、死んでた」
「この時代にはない武器を使ってただろ」
「うん、使ってた。えっと……リングと匣兵器」
「ああ、合ってる。それじゃあ最後の質問……、」
マーモンの言葉が不意に途切れる。表情の変化がないので他の者には伝わらないだろうが、マーモンは一瞬悩んでしまっていた。他の者たちと比べれば明らかに少ない、自分が見たものの中でも、それは特に強い違和感をマーモンの中に植え付けた。
氷雨が不思議そうな顔をして「マーモン?」と言いながら首を傾げる。マーモンは彼女の顔を見上げて、口を開いた。