第7章 【04-後編】零時の鐘が鳴るまで
バン!
大きな音を響かせて、ヴァリアーアジトの玄関の扉が開く。
運悪くその場に居合わせた下っ端隊員は凄まじい形相で走り込んでくる幹部二人の姿をぽかんとしたまま眺めていた。挨拶をする余裕すらない。
ベルフェゴールは、呆然としているその隊員に気付くとズカズカと歩み寄っていった。何事かと思いながら下っ端の彼が震え上がりそうになったところで、投げつけられたのはビニール袋。彼は気合でそれをキャッチした。とても重い。
「それキッチンに運んどけ」
「え?あ、は、はい!」
「ベルくん乱暴だよ……」
「うるせ。オレはマーモンの部屋に行ってくる。お前は談話室見てこい」
「はーい、了解」
クエスチョンマークを飛ばしまくっている下っ端隊員になど目もくれず、ベルフェゴールはアジトの奥へと去っていく。下っ端隊員は一先ず嵐が去ったことにホッと息を吐いて、その場にいるもう一人の幹部へと視線を移した。
彼女は下っ端隊員の視線に気付くと「騒がしくてごめんねー」と言って苦笑いをこぼす。
「いえ……あの、そちらも運びましょうか?」
「あ、ほんと?助かるよ、じゃあよろしくね」
氷雨はにっこりと笑みを浮かべて、隊員にビニール袋を差し出した。隊員もにこやかな笑顔でそれを受け取り――すぐに後悔する。こちらのビニール袋もベルフェゴールが投げて寄越したものに負けず劣らず重かったのだ。
若干表情が引きつりつつある隊員の変化に気付いているのかいないのか、氷雨は「ありがとう」と笑顔で礼を言いながらアジトの奥へ行ってしまう。残された下っ端隊員は、キッチンまでの道程を思って涙するしかなかった。
すっかり身軽になった氷雨は談話室に向かって軽やかに歩を進める。途中でマーモンをすれ違わないかと思って、キョロキョロと辺りを見回した。
“あれ”が事実だとしたら、いまのマーモンはどうなるのか。彼女にその問いに答えるだけの能力はない。最悪の事態を考えたくはないが、その最悪は妙にリアルに彼女の心に影を落とす。その痛みを、悲しみを、彼女はたしかに知っていた。