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THE WORST NURSERY TALE

第7章 【04-後編】零時の鐘が鳴るまで


「君と、ベルは、恋人だったかい」


 その問いを受けた途端に、氷雨の瞳は大きく見開かれる。そして「あ……、う……」と言葉にならない声を半開きの唇から発したかと思えば、彼女はマーモンから視線を逸らして頬を赤く染めた。まるで、なにかを思い出して照れているかのような、その反応は十分答えになってしまった。
 一瞬で静まり返った談話室に、ガン!となにかを殴る音が響く。スクアーロがテーブルを殴った音だった。彼は項垂れて「まじかよ……」と呟く。
 氷雨は両腕で膝を抱えると、拳をぎゅっと握りしめた。罪悪感ばかりが胸の内を駆け巡る。

 心の何処かで、喜んでいる自分がいた。それが彼女には衝撃的で、それゆえに彼女の胸は痛む。知らなければよかった。あれを見なければ、きっと知らずに済んだ。そう思うのに、彼女の頭の中からは“あの世界の自分"の幸せそうな笑顔が離れなかった。

 彼女は、どんな想いでベルフェゴールの側にいたのだろうか。氷雨には理解できない。理解したくない。彼女は暗殺者でマフィアで――ヴァリアーの監視役、だ。ロミオとジュリエットよりタチが悪い。よく考えなくたって、そんなことはわかるのに。わかる、のに。
 もう自分の気持ちを自覚してしまった。心のうちに燻ぶる感情、奇妙な胸の高鳴り、理解できなかったすべてを理解するために必要だったのは、たった一言の魔法だった。

 ――ベルくんが、好き。

 また静かになってしまった談話室に、今度はバン!と勢いよく扉を開く音が響いた。その場にいる全員が談話室の入り口に目を向ける。そこには、金髪の少年が立っていた。
 彼は真っ直ぐ皆が集まっている場所に進んでくると、不思議そうな顔で首を傾げる。


「マーモン死んでる?」

「……だから、生きてるよ。どうしてここの人間はそうなんだい」


 覚えのあるやりとりに、マーモンは呆れたようにため息を吐いた。そのため息は氷雨の胸にも深く突き刺さるような気がした。





鐘が鳴って魔法は解ける
残されたのは、ガラスの靴と気持ちだけ





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