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THE WORST NURSERY TALE

第7章 【04-後編】零時の鐘が鳴るまで


 長く続いていた地響きが止み、地面の揺れもおさまった。通りでは声高にいま起きた地震について話す人々の声が飛び交っている。アクセサリーショップの店員たちはようやく落ち着きを取り戻すと、店内にいる客たちの無事を確認し始めた。
 ベルフェゴールと氷雨にも声が掛けられる。二人はワンテンポ遅れて店員に大丈夫だと伝えた。


「あー…とりあえず会計。これで」

「は、はい。かしこまりました」


 ベルフェゴールはクレジットカードを店員に押しつけた。見た目は店員たちよりよっぽど落ち着いているように見える。カードを受け取った店員がレジに行ってしまうと、二人の間には無言の時間が流れる。

 ほんの数分のうちに、彼らが手に入れたものは膨大すぎた。覚えのない場所、覚えのない戦い、覚えのない武器、覚えのない言葉――――そして、覚えのない関係。すべてが物語のように他人事に感じられるのに、驚くほどの現実味を内包している。それらを瞬時に理解し受け入れるだけの度量を、いまの彼らは持っていなかった。

 会計を済ませて店を出ても二人はまだ言葉を発することができなかった。無言で歩を進めるその姿は、がやがやと騒がしい通りとは対照的だ。
 そうして暫く歩いていった後で、不意に二人は「あっ」と声を上げる。見事に声がハモった。あの地震以降、はじめて彼らは顔を見合わせる。お互いの言いたいことはなんとなくわかっていた。


「「マーモン!」」


 再び声が重なった。一言一句変わらない、それは彼らの同僚である赤ん坊の名前である。
 氷雨は、どうしてこんな大切なことに最初に気付かなかったのかと思った。石畳にカツンと足音を響かせながら、彼女は地を蹴る。


「アジト!急ごう!」

「おう!……って王子に命令すんな!」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょー!」


 先程までの大人しさは何処へやら、二人はぎゃあぎゃあと騒ぎながらアジトに向かって走る。その光景は、たしかにいつもの二人だった。

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