第2章 【02】魔法の鏡は誰のもの?
アジトから車を走らせて約五時間。氷雨は依頼主に指定された屋敷を訪れた。門を固めている黒服の男たちなどを見る限りでは、恐らくファミリーの本部かそれに準ずる重要拠点といったところだろうか、と彼女は予想する。
車を降りて近くの黒服に名を告げると、彼らは疑う様子もなく氷雨を屋敷の中に入れた。そして、また違う男が出てきて屋敷内を案内される。連れてこられたのは、ひとつの部屋の前。案内役の男は「どうぞ中へ」と言って、頭を下げた。
氷雨は扉を開く。――と、そこには一人の男がいた。
「ようこそ、セリオーネファミリーへ。君がヴァリアーの……氷雨、さん?」
「はじめまして、氷雨です。お話を伺いに来ました」
にこやかに微笑む男に対して、氷雨はぺこりと会釈をすると懐から依頼書を取り出して彼にも見えるように広げた。
男は、青空を映したような瞳を細めて氷雨の姿を暫く眺めたかと思えば、部屋の中央に置かれたソファに腰を下ろす。そして、片手で向かいのソファを示した。
「どうぞ、座って。女性を立たせたまま話をするのは忍びない」
男は、再びにこやかに微笑んだ。
まさかレディファーストとやらの対象になるなんて思ってもみなかった。氷雨は、彼の対応にどこかくすぐったいような気持ちを感じながら「失礼します」と頭を下げてから彼が示したソファに腰を下ろした。
その男は、ミカエル・セリオーネ。現ボスの甥にあたる人物である。彼の所属するファミリーは、ボンゴレの中でも末端の末端。身内と数十名の構成員で動いている小さなファミリーだ。
氷雨はメイドが運んできた紅茶を飲みながらミカエルの簡潔な自己紹介を聞いていた。
「今のボスは嫡子がいなくてね。次期ボスを誰にするかで、身内が争っている状態なんだ。恥ずかしい話だよ」
「なるほど。ミカエルさんもその次期ボス候補なんですね?」
「ああ、そうだ。私はそこまでボスの座に興味ないんだけどね……周りはそれで許してはくれない」
「それは、御愁傷様です」
言葉ではそう言ったものの、彼女の表情は心配しているようでもなく哀れんでいるようでもなかった。寧ろ、興味がなさそうである。