第2章 【02】魔法の鏡は誰のもの?
ベルフェゴールは対戦相手がいなくなってやる気がなくなったのか、足元にゲーム機を放ると床に座ったままスクアーロを見上げた。
「なあ、スクアーロ。ランクいくつ?何人殺れる?」
「あぁ?この任務は殺しじゃねぇぞ」
「なーんだ、つまんねー。一人で頑張れよ氷雨」
「ん、頑張ってくる。部下は何人連れてっていい?」
「一人じゃねーじゃん」とベルフェゴールが突っ込むものの、氷雨は意に介していない様子である。
スクアーロは暫し黙りこくった後、おもむろに持っていた書類を氷雨に突きつけた。彼女は不思議そうな顔でそれを受け取る。
「部下は無しだ。おまえ一人のご指名だからなぁ」
「えー……あ、ほんとだ。指名されてる」
「は?指名ってなんだよ。おまえいつからホステスになったの?」
「うん、それは私が聞きたい」
「内容は要人の護衛だ。どっかのファミリーの幹部らしい」
「暗殺部隊に護衛頼むとかナメてんの?」
「俺に言うなぁあ!俺だってどうしてこんな依頼が来たのかわからねぇ!」
ギャンギャンとかなりの声量で話している男二人の横で、氷雨は静かに書類に目を通している。珍しく紙一枚に纏められた依頼主や依頼の情報を難なく頭にインプットすると、氷雨は「よし」と頷いた。
「なるべく早く会いに来いって書いてあるから、早速行ってくるね」
「おいおい、アバウトな指定だな。大丈夫かよ」
「護衛ってしたことないからねぇ…ちょっと心配」
「間違って依頼主を殺すんじゃねぇぞぉ」
「気を付けまーす」
氷雨は真っ黒なコートに袖を通し、ひらひらと手を振りながら部屋を出ていった。主がいない部屋に残された男二人も、その部屋を後にする。
自室に向かいながら、ベルフェゴールは「暇だなー」と呟く。その声は静まり返った廊下に、少しだけ残念そうに響いた。