第7章 【04-後編】零時の鐘が鳴るまで
「いい加減離せよ、コートのびる」
「ベルが綱吉さんに喧嘩売ろうとするからでしょ?」
ベルフェゴールのコートの裾から手を離すと、氷雨は呆れたように息を吐き出した。
当人の彼は、むすっとした表情をしたまま黙り込んでしまう。謝る気は毛頭なさそうだ。
「綱吉さんは、何も関係ないんだから」
「それでもオレはムカつくし、キライ」
「もー……」
子供のような言い分に、氷雨は頭を抱えるしかない。的が外れているとはいえ、一応己を気遣った上での発言だと思われるため余計に扱いづらかった。良くも悪くも、本当にベルフェゴールは真っ直ぐだ。
「さっき、なに話してたんだよ」
「別に……お疲れ様でしたと世間話だけど」
「わざわざ二人で?」
「それは邪推です」
「はっ、どーだか」
じい、と見つめてくるベルフェゴールの視線が氷雨には痛かった。こういう時ばかり、この男は勘が鋭い。けれど、過去の自分へのメッセージを託したなんて、到底彼には話せそうにもなかった。内容は更にだ。
刺さる視線を受け流し、彼女はふと足を止めた。一歩、二歩と先に進んだベルフェゴールも遅れて立ち止まる。
「どうした?」
「明日ってさ、どうなるんだろうね」
「急になに」
「ミルフィオーレとボンゴレの抗争ってなかった事になるんでしょ?それってもう、ここ数年の記憶が飛ぶようなものだなあって思って」
「あー……言われてみれば、そーだな」
興味がなさそうな様子でベルフェゴールは頷いた。多分どうでもいいと思っているのだろう。
氷雨は、少しだけ不安だった。これまで起きてきた出来事がすべて無かったことになる。それがどういう事なのか理解するのは難しい。寧ろ理解できないほうが人間としては正常だ。
「うちの隊員も結構死んだし、死ななかったことになるのは助かるんだけどね…」
「あの程度で死ぬヤツはまたすぐ死ぬぜ?」
「身も蓋もない!」
「そっちが先にテキトーな事言ったんだろ。気にしてんのは、そこじゃねーくせに」
「う、はい……」
図星ゆえに氷雨は言い返せなかった。この手の誤魔化しが、どうも最近はベルフェゴールに通じなくなってきている気がする。
「お前は、どう思う?」
「私?」