第7章 【04-後編】零時の鐘が鳴るまで
「綱吉さんにお願いしたい事があるんです」
「俺に、ですか?」
「はい。元の時代に戻った後、私に会うことがあったら伝えて欲しい事があって……」
「えっ!でも俺、氷雨さんの居場所も知らないし…会えるかどうか」
「会う機会があったらで構いませんし、そのときに貴方が覚えていたら…という程度で大丈夫です」
「そ、それなら……わかりました」
「ありがとうございます、綱吉さん!」
氷雨の手が、綱吉の右手をぎゅっと包み込んだ。彼は困惑した様子で握られた手を引こうとしたが、しっかりと彼女の両手に捕まってしまって逃げられない。白くて華奢に見えるそれは、思いのほか力強かった。
「それで、何を伝えればいいんですか?」
「考えるだけ無駄ですよ、と」
「えっ」
「そう、伝えてください」
よろしくお願いします、と続けて氷雨はまた微笑んだ。やはり彼女の表情からは、彼には何も読み取れない。
考えるだけ、無駄。意味深な彼女の伝言を心の中で反芻して、綱吉はその意味を考えてみるが答えは出なかった。氷雨がその伝言に込めた意味が分からない。けれど、自分がそれを聞いてしまっていいものだろうか。
「氷雨!」
唐突に名前を呼ばれて、氷雨は振り返る。綱吉もなんとなく顔を上げて彼女の目線の先を追った。
声の届くギリギリの距離を取って、ベルフェゴールが立っていた。彼も10年後の姿である。
「どうしたの、ベル」
「ボスが全員集合だってよ」
「もう?……わかった、すぐ行くわ」
「氷雨さん、あの……っ」
「お話できて良かったです、綱吉さん。またお会いできる日まで、どうかお元気で」
綱吉の声を遮って別れの言葉を告げた氷雨は、ぎゅっと彼の手を握った後にするりと手を離した。歩いていく彼女を呼び止める言葉が思いつかず、綱吉が呆然としている間に、氷雨はベルフェゴールの隣に並び、最後に笑顔で会釈をすると再び背を向けてベルフェゴールと共に去っていく。
残されたのは、意味深な伝言が一つだけ。
なんだか一方的にお願いをされて帰られてしまったような気がした。綱吉は、はあと気疲れした様子でため息をこぼす。
その時だった。