第7章 【04-後編】零時の鐘が鳴るまで
ーー白蘭の行った所業は、今も過去も含めて跡形もなく無かったことになる。
ボンゴレの命運を託された10年前の沢田綱吉は、ミルフィオーレファミリーのボスである白蘭を打ち倒した。その結果、白蘭が使用していたマーレリングの力は無効化されることになり、全パラレルワールドでマーレリングの力によって引き起こされていた事象はすべて最初から起きなかったことになる。
先刻アルコバレーノが話していたことを反芻して、沢田綱吉は首を傾げた。小難しい言葉を羅列されると、ちんぷんかんぷんだ。彼にとっては「ミルフィオーレに殺された人たちが死なかった事になる」というだけで十分だった。
それに、これでようやく、自分たちは在るべき時代へと帰れるのだ。
「綱吉さん!」
沢田綱吉は、聞き慣れない声に名前を呼ばれて振り返る。少し離れたところで入江正一とヴェルデが白い装置の最終チェックを行っていた。
真っ黒な髪と真っ黒なコートを靡かせて彼のもとへ駆け寄ってきた女性は、ホッとしたように笑った。綱吉の頭の中に、クエスチョンマークが一つ浮かぶ。
「よかった、お帰りになる前で。一言ご挨拶したくて」
「へ?お、俺に……ですか?」
「はい、もちろんです」
息一つ乱さずに、女性はニコリと微笑んだ。綱吉の頭の中にまた一つクエスチョンマークが浮かぶ。
この人は誰だろう。至極単純な疑問に、未だ答えは見つからない。彼は言葉を返すことができずに「ええと、」と口籠った。
目の前の女性は首をかしげる。
「……もしかして、私が誰だか分かりませんか?」
「あっ、その……す、すみません……!」
「ああ、いえ!構いません。10年前……その頃なら、たぶん貴方にお会いしたのは一、二回でしょうから」
てっきり気を悪くさせるだろうと思っていた綱吉は、女性が少しも気にしていないという顔で笑うから逆に戸惑ってしまう。
見た目は、典型的な日本人に見える。真っ黒なコートと同じ色のタイトスカートに真っ白なブラウス。相変わらず、彼女が誰かはわからないが、その黒いコートだけは彼にも見覚えがあった。同じものを着ている集団を知っている。
綱吉がそのことを訪ねるよりも早くに、彼女は自分から話し出してくれた。