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THE WORST NURSERY TALE

第7章 【04-後編】零時の鐘が鳴るまで


 ベルフェゴールは、氷雨を好きになりたくて好きになったわけじゃない。だから、嫌いになろうと思ったところで嫌いになれるはずもない。


「だから決めた。いつかおまえが死にそうになったらオレが殺す、ってね」

「……洒落にならないんですが」

「大真面目なんだけど?」

「マジかー……」


 ベルフェゴールが頬から手を離すと、氷雨は両手で顔を押さえて俯いた。隠しきれなかった両耳が赤く色付いていく。彼女が照れている事実は、彼に筒抜けだった。
 ベルフェゴールは、満足げにうししと独特の笑い声を零す。


「お前も、オレが死にそーになったら先に殺してやるくらいの気でいればいいよ。そんな状況ありえねーけど」

「えぇ……うーん……どうしよう……」

「なに、嫌なわけ?」

「や、そうじゃなくてね」


 氷雨は観念したように顔を覆っていた手を退けるものの、未だ気恥ずかしそうに視線は逸らしたままだった。
 こんなに物騒なことを言われているのに柄にも無くときめいた、なんて。どうしよう。しかも、あんなに深刻に考えていたことがポンと頭から飛んでいってしまった。


「ベルには敵わないなあ……」


 彼女は改めて実感する。氷雨が死ぬほど悩むことを、彼はいつだって先に乗り越えていくのだ。
 実際のところ、ベルフェゴールにもそれなりの葛藤が存在しているのだが、彼自身がそれを口に出さないので氷雨が彼の葛藤を知る日は、しばらく来そうにない。


「ししし、あったりまえじゃん。だってオレ王子だもん」

「うん……そうだね。ほんとにベルは凄いよ」

「まーね。おまえを殺すのはオレだけど、気が向いたらまた手ェ貸してやってもいいよ」

「それは切実に宜しくお願いしたいです」


 上機嫌で笑うベルフェゴールを前に、氷雨は深々と頭を下げた。彼が手を貸してくれるうちは、きっと己も容易に死ぬことはないだろうと思える。くすっ、と氷雨は小さく笑った。安心すると笑いが込み上げてくる、というのはこういう感覚のことを言うのだろうか。
 胸の内があたたかくなる気持ちを覚えながら彼女が顔を上げると至近距離にベルフェゴールの顔があった。驚きから思わず後退ろうとするも、細いくせに力のある男の腕に腰を引き寄せられて逃げ道を塞がれてしまう。
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