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THE WORST NURSERY TALE

第7章 【04-後編】零時の鐘が鳴るまで


「ふっざけんな」

「えっ?」

「マジで今更なこと言ってんじゃねーよ、タコ」

「痛っ、ちょ、伸びる伸びる!」


 むにーっとベルフェゴールが氷雨の頬を引っ張った。先程よりは力加減に気を遣っているらしく、氷雨もそこまで痛そうな様子は見せていないが、彼女はギブアップとばかりにペシペシと頬を引っ張る男の手を叩く。
 しかし、ベルフェゴールは手を離さなかった。どことなく不機嫌そうだ。


「んなこと、オレはずっと前から考えてたっつーの」


 ベルフェゴールの手を叩く、氷雨の手が止まった。黒い瞳が真ん丸になって、目の前の男を凝視する。それは彼女が予想だにしていない言葉だった。


「当たり前だろ。おまえ弱っちいし、オレより死ぬ確率高そーだし」

「い、言い返せない……」

「けど、しょーがねーだろ。だからって好きなもんは好きだ。こういうのは理屈でどうにかなるもんじゃねーの」


 氷雨の目がますます丸くなっていく様を見つめながら、ベルフェゴールは心中でクソッと呟いた。
 彼女があまりに深刻な顔で話し出すから何かと思えば、まさかこんな話題だとは。苛立ち半分、呆れが半分。何故ならば、同じ事をベルフェゴールはもう随分前に考え抜いて、その結果として氷雨に告白したのである。いやマジで何年前の話だと思ってんだ。今更にも程があるだろ、と思いながら彼は更に苛立ちを募らせた。

 ベルフェゴールは、自分が死ぬことなど考えた事もない。
 だってオレ王子だもん。凡人とは出来も育ちも違うオレが、そこらの馬の骨に殺されるとか天地がひっくり返ってもあり得ない。
 彼は、そうやって自信満々に答えられる男だった。失敗や敗北が死だというなら、己が死ぬ日は早々来ない。そう思えるくらいには、ベルフェゴールは殺し屋としての自分の腕に自信を持っていた。
 しかし、他人のこととなればそうもいかない。氷雨が死ぬ様を、ベルフェゴールは容易に想像できてしまう。彼女は大局のためなら自死も厭わない人種だ。自分の知らないところで、彼女はボンゴレのためだとかヴァリアーのためだとか、ベルフェゴールにしてみれば"くだらない理由"で死も受け入れられてしまう馬鹿な女。
 けれど、その愚かさも含めて愛おしいと思ってしまったのだから、仕方がないとしか言いようがない。
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