第2章 【02】魔法の鏡は誰のもの?
彼らに仕事がないということは、世の中が平和な証拠である。
鈴川 黎人の訪問から数日が経った頃、今日もヴァリアーには閑古鳥が鳴いている、はずだった。
「ていやっ」
「あ?おまえ卑怯な手使ってんじゃねーよ」
「ちゃんとルールに則って使ったから卑怯じゃないですー」
「かっちーん。返り討ち決定」
「う゛お゛ぉい!氷雨いるかぁあ!」
「うっせーよカス鮫、気が散る」
ベルフェゴールの声を聞いた途端、スクアーロは反射的に身構えた。最早条件反射とも言える、悲しい反応である。しかし、彼の予想とは裏腹に今日はナイフが飛んでこない。珍しいこともあるもんだと思ってスクアーロが視線を落とすと、ゲームに熱中している氷雨とベルフェゴールが視界に入った。まったく、微塵も、スクアーロに目を向ける様子はない。二人の視線は携帯ゲーム機の画面に釘付けだ。
ぷちっ。スクアーロの中の切れやすい何かが今日も切れた。
「遊んでんじゃねぇえ!仕事だ任務だぁあ!」
「仕事だってよ、氷雨」
「え、私?」
「氷雨いるかって言ってたじゃん。どう考えてもおまえだろ」
「あー、そっかー」
「真面目に話を聞きやがれぇええぇ!」
「あっ!」
自分の手から離れたゲーム機を追って、氷雨は顔をあげた。当然そこには鬼の形相で仁王立ちするスクアーロの姿がある。その手には彼女から取り上げたゲーム機。
ぴろろーん。緊迫した空気に似合わない、間の抜けた音が鳴った。氷雨の隣でベルフェゴールがうししっと笑い声をあげる。氷雨は、がっくりと肩を落とした。
「もうちょっと待ってくれても……」
「遊びと仕事を天秤にかけられるか!いいから、仕事だ!準備しろぉ!」
「はい……」
すっかり寛ぎモードでベッドに転がっていた氷雨は、力なく立ち上がると隊服や武器の準備を始めた。落ち込んでいるように見えるが、手元はわりとテキパキ動いている。