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THE WORST NURSERY TALE

第7章 【04-後編】零時の鐘が鳴るまで


 氷雨はブラウスのボタンを留めながら、、バツの悪そうな表情でベルフェゴールを見上げた。


「心配かけて、ごめん」

「べっつに心配なんてしてねーよ、バカ」


 むすっとしたベルフェゴールが、両手で氷雨の頬を掴んで左右に引っ張る。が、思いのほか力が入ったのか、彼女が痛い痛いと表情を歪めるものだから渋々手を離した。
 涙目になって僅かに赤く色付いた頬をさする姿に、死にそうな顔で笑っていた彼女の面影はない。ベルフェゴールは、ホッとした。いや断じて心配したとかそーゆーのでは無いけれども。
 じいっと注がれる視線を受け止め、氷雨は目を細めて笑う。


「私は心配したよ」

「は?」

「ベルとフランくんが倒れたとき、本当に死んだんじゃないかと思って……」

「はあ?オレがあんな簡単に死ぬわけないじゃん」


 バカじゃねーの、と言ってベルフェゴール はあっけらかんと笑った。
 氷雨が苦笑いを零して目を伏せる。その仕草があまりにも寂しそうだったから、彼は一度離した右手を彼女の頬に添えて顔を上げさせた。真っ暗な夜色の瞳が揺れているように見えるのは、先程頬を強く引っ張りすぎたからだろうか。
 氷雨は、へらりと笑った。
 

「いつか、どっちかが死んじゃう日が来ることは分かってたつもりだったの」

「……仕事柄ってだけの話だろ」

「まあ、そうね。でも、本当にそれは"つもり"でしかなくて……私は何も分かってなかったって、思い知った」


 氷雨の手のひらが、頬を包むベルフェゴールの手に重なった。自分のものではない体温が、今はただただ愛おしい。


「私が覚悟できてたのは、自分が死ぬことだけだったんだなって……ほんとバカだよね」

「……」

「ベルが先に死ぬ日が来るなんて考えてもなかった事に今更気付いちゃった」


 だってベルは王子様だもん。私より先に死ぬわけがない、なんて。
 「都合良すぎだよね」と続けて、氷雨はまた力なく笑う。

 数えきれないほど多くの死を、彼らは見てきた。それ自体に感慨はない。後悔もない。きっとこれからもそれは同じだと、ずっと思ってきた。明日見る死は、知っている誰かかもしれない。同僚かもしれない。だからといって何が変わるわけでもないと思っていた。氷雨も、ベルフェゴールも。
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